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 あれ? いないのかな?


 不安になった僕が再び受付の前に戻ると、受付のお姉さんが立ち上がった。


「あら、どうしたの?」

「すみません、その、ノックしても誰もいないみたいで」

「ちょっとお待ちくださいね」


 受付のお姉さんはにっこり微笑みながら胸元のスカーフを揺らし、社長室へ向かった。


「社長ーお待ちの春原さんが来ましたよ!」


 直接ドアに向かって話しかけている。

 やはりドアの先は静かなままだ。

 受付のお姉さんははーっと低くため息を着くと、腕まくりをしてドアを思いっきり叩いた。


「社長ーー! まさかまた寝てませんよねぇ!」


 奥の部屋からなにやらドサっと落ちる音がする。


「う、はっ、あ、おおいー入りたまえー」


 ややあって、男の人の声が聞こえた。


 受付のお姉さんが「全くもう……」と少し怖い顔でドアの先を睨んでいる。振り返ると僕には営業スマイルを向けた。


「すみません、どうぞ」

「は、はぁ……」


 僕は恐る恐るドアを開けた。


 思ったよりもこじんまりした部屋が見える。

 社長室って凄い豪華な机とか本棚とか並んでいて格式高い感じがする物かと思ったのだけど、部屋の中はすごく雑然としていて、向かった部屋の正面の机には本とか資料の山で色々な物が堆く積まれていた。


 両サイドのブックシェルフには格闘技や舞台についての本、DVDラックにはライダシリーズやら特撮物、映画、ドラマ。とカテゴライズしてあるところに色々なDVDやブルーレイが置かれていた。


 僕はポカンとして部屋を見回してしまう。


 机の中央にまるで景色に溶け込んだように、海倉さんと年が近そうな人が、幾晩泊まったんですか? と言いたくなるくらいの勢いでもっさりと椅子に腰掛けていた。


「あーあー君が春原守くんだね、海倉から話は聞いてるよ!」

「は、はいっ」

「僕は柿崎アヤトよろしくね! で、君、早速なんだけど、ライダーとか見てる?」

「は?」


 話が急展開すぎる。

 僕の心構えもお構いなしに、社長が一冊の台本を狭い机の上に投げ出した。

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