3
エレベーターに乗り込むと真新しい匂いがした。
扉が閉じる瞬間にフード付きのコートとチェック柄のズボンを穿いた可愛らしい男の子が滑り込むように乗ってきた。
その子は少し息を切らせながら「ふー間に合った」と膝に手を置き、息を整えた。
手をパタパタと顔の近くに持っていき扇いでる。少し汗をかいていた。
僕よりは背が低い、髪の毛は真っ直ぐなショートボブで、憧れるほど黒くて艶々してる綺麗な髪の毛だ。
僕と目が合うと彼はにこっと微笑む。僕は軽くお辞儀した。
「君、面接かなにか?」
声もハキハキしてメリハリがある。すぐに芝居経験がある人なんだろうと思った。笑顔も可愛らしい。
「えっ、あのっ、僕は今日からここにお世話になります」
少し緊張した面持ちのまま僕が応えると、彼は「ああっ」とすぐに反応した。
「あー君か! 昨日受付のお姉さんが言ってたんだ、明日新人俳優さんがくるって」
彼は好奇心一杯に僕をじっと見る。切れ長の目で如何にも日本人的な、それでどこか幼さを感じる少年。
たぶんこの人は年下だろうけど、事務所の先輩になる人なんじゃないかなと思った。
「助かるよー。ここの社長結構人使い荒いから気をつけてね、根はいい人なんだけどさーいきなり仕事押し込んでくるから!」
エレベーターが指定階数に到着すると受付のカウンターに髪の長いスカーフ付きの制服を着たお姉さんが座っている。
彼女は僕らを見てにっこりと微笑んだ。
「桐香くんおはよう」
「おはよう晴瀬さん!」
桐香くんと呼ばれた彼は、ひらひらと僕と受付のお姉さんに向かって手を振ると、素早く事務所の左側ドアを開けて奥に消えていった。
「あの……」
「はい」
「今日実は三時にここの事務所の社長さんに会う約束をしていまして」
「そうですか、お名前は?」
「春原守です」
受付のお姉さんはパソコンの画面を見てなにやらカタカタとキーボードを打った。
「はい、承っております。この右手奥のドアが社長室になっておりますのでドアから直接お入りください。社長がお待ちしております」
「は、はいっ」
僕は右手と右足が同時に動いてしまうほど緊張して、社長室のドアの前に立つ。
深呼吸をしてから遠慮がちにドアをノックした。
返事がない。
今度は少し大きめにドアを叩く。
やっぱり返事がない。
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