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3月3日は僕の誕生日。
なんとなくソワソワしてしまう。今年はいつもとは全然違う誕生日になるだろうなと思ってるから。
けれど、僕も何も女の子のお祭りの日に誕生する事もないだろうに。
僕には姉がいる、その体格や素養からはとても想像できない名前だ。春原可憐って言う。
最初に彼女を目の前にした人はまず、この名前を聞いて目を泳がせる。
全然可憐じゃないからだ。合気道の師範の恐るべき剛腕女、可憐に僕は何度も悲劇を味あわされた。
その一番記憶にある吊るし上げの一つが3月3日。地獄だった。
『ひな祭りとついでに守も祝ってやる会』という、僕にとってはこの上ない屈辱と、女の子まみれの会に僕の誕生日ながら怯えていた。
一度友達も誘ったのだけど、あまりの女子軍団の迫力に気圧されて、それ以来誰も来なくなった。
特に最悪なのが可憐の友達の近所の姉妹。何かというと僕をからかっていた。
一度僕の大事なところに象さんの絵を書かれて泣いたことがある。
パンツをはぎとられてそのままそれを木の枝にくくりつけて持ち、嬉しそうに逃げ惑う姉妹を僕は泣きながら追いかけた。
そこに可憐が登場した。
「こらぁーあたしの大事な弟になにすんだ!」
さすがの迫力に姉妹も「可憐ちゃん怖い」って萎縮した。僕は姉の傍に駆け寄って拳を振り上げている可憐の背後にまわろうとしたが、振り上げた拳は姉妹にではなく、僕に対してだった。
ゴスっと鈍い音が脳天を突き抜ける。
「お前もお前だ、自分の事も守れなくて何が守だ! 男だろ、しっかりしろ!」
僕はあまりのショックに下半身が象さんのままぎゃーと泣いた。ついでにそのままおもらししてしまった。
それを見てた姉妹がケラケラ笑った。
さ、最悪だ……。
思い出したくもない辛い思い出。
嫌な事は忘れよう。僕はそのまま事務所の社長さんに会いに行く。午後三時にそのオフィスに行くことになっていた。
目の前にあるビルは思ったよりも小綺麗なところだった。ためらいがちにメモを何度も見る。
「ここだ……」
僕は少し緊張した。どんなところで誰がいるんだろう。
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