第11話あの人の名は
私の名前はジャスミン。
大陸中央から北東に位置した小さな村の21歳の娘。
小さい村だけど近くの鉱山から鉄鉱石が取れるおかげでそれ目当ての働き手によって村の経済は回ってる。
そのおかげで首都に出稼ぎに行かなくて済んでる。
私は昼間は村に一つある食堂付きの旅館の受付をやっている。
夜は酒場となると言う訳。
ある日、鉱山で働いてる人達が騒いでいる。「リッチ」ってなにそれ?
聞いた事ないモンスターの名前だった。
村の住民達が一番恐れるのはトロール。
その次がゴブリンの群れ。
あいつらは山に入って仕事をする村の人達を攫っては食料とする。
ゴブリンには何とか追い払いながら逃げてきたと言う話も聞く。
トロールは遭遇した瞬間、駄目らしい。生きて帰って来た人は村でたった一人。
友達と一緒に木を伐採しに山に入った時、互いに少し離れた場所で仕事していたら友達がトロールに襲われてるのを目撃したらしい。
ほんの一瞬の出来事でトロールはその友達の首を折り、連れ去られるのをただ見てるだけだったと。
領主に何度も討伐を依頼したが、こんな小さな村までは中々助けの手が降りて来ない。今は反乱軍の対応で精一杯のようだ。
払える報酬も大した額ではない。
冒険者に依頼するにも領主にお願いするにも謝礼金が足りない。
村長の少ない髪の毛が更に離脱を早めていく。
その時、あの人は現れた。
背中にトロールの死体を背負ってね。
私、最初に見た時は怖くてお漏らししちゃった。
私も食べられるのではないかって、(その後しっかり食べられましたが♡)
旅人「わりぃ。脅かしてしまったか。」
その旅人は不思議な鎧を着ていたけど、よく通る、重くはないが決して軽くもない声の持ち主だった。
その後、村は大騒ぎよ。
村の一番心配ことだったトロールを討伐してくれた人が現れたのだから当然ね。
トロールの住処にあった村人の遺品もあの人は持って帰ってくれた。遺族達の元へ返して欲しいと。
普通の冒険者なら拾ったものは己の物よ。それをわざわざ返すだなんて変わった人ね。
体を洗いたいと言うので村の井戸の場所を教えた。
兜を抜いて現れたお顔は何と良い男!肌が白い、貴族様かな?
そうは言っても華奢な感じではなく凛々しい顔立ちだった。
黒髪はあんまり見た事がない。
東の大陸にその様な人種がいるとの噂話を行商人達から聞いた覚えはある。
他国の王子様かしら。
その人は村長からの少ない謝礼金を受け取るとすぐさま宿にある食堂を訪れた。
蜂蜜酒と牛と豚肉の骨付きバーベキュー、ウサギ肉が入ったスープ、麦のパン、リンゴなどを頼み、よく食べてよく飲む人だった。
牛と豚の骨付き肉は窯で半日くらいじっくり焼き上げたもので骨はずるりと離れて行く。
フォークとナイフで綺麗に肉を切り分けては口に運び、よく噛み、ゴブレットに注がれた蜂蜜酒を喉に流し込む。
蜂蜜酒には幾つかの種類が有って今出したのは食事によく合うスパークリング入りの甘みは少ないものだ。
宿おすすめの物を頼まれたのでそちらを出せて良かったと思う。
豪快に、しかしどこかしら品の良さを感じさせる食べっぷりだった。
旅人「アキラだ。」
ジャスミン「変わった名前ね。一週間の宿泊だったら7シルバーよ。朝食付きね。」
旅人「これでどうだ?夕食も含めてお願いしたい。」
1ゴールドがカウンターに置かれる。
ジャスミン「充分だわ。夕食の支度が出来たら下で食べる?部屋まで持って行く?」
旅人「下で構わない。」
ジャスミン「これが鍵よ。無くさないでね。上がって一番奥の左側の部屋よ。」
旅人「ありがとう。休ませてもらうよ。」
ジャスミン「ごゆっくりどうぞ。」
そろそろ旅館も酒場に切り替わって行く、私も女給として働く。
私にはもう一つの仕事がある。
夜、酒場で花を売る仕事だ。
何でも誰でも良い訳では無くお客との話し合いで折り合いをつけて行く。
但し店主の命令となると従うしかない。働き口がなくなるからね。
あ、旅人が降りて来た。鎧は外したのね。
やっぱりいい男。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます