動画サイト『ヨーチューブ』
「――ふぅ」
二時間に及ぶカラオケが終わった。
中々にカロリーを消費したと思う。久しぶりに
「楽しかったね、賢」
「ああ、たまには良いものだな。ストレス発散になったよ」
「でしょでしょ! じゃあ、お会計ね」
と、璃香はお財布を取り出す。
いやいや、ここは俺が支払うさ。
「俺に任せろって」
「で、でも……いいの?」
「いいさ、これでもアフィリエイトとか動画の広告収入が微量だけどあるんだ」
「へえ、賢ってそういうウェブ活動してるんだね」
「動画サイトの『ヨーチューブ』ってあるだろ。あそこに動画投稿してるのさ」
「動画を出していたんだ。意外ね! てか、そっちの方が儲かるんじゃ。ほら、ピカキンとか有名じゃん? あの人なんて余裕の“
億り人――つまり『純金融資産』が一億を超える金持ちの人を指す。大手動画サイトでは、そういう人達が輩出され、今や“ヨーチューバー”として名の馳せているな。
もちろん、俺もそういう有名人を目指した時期もあった。けれど、既に“レッドオーシャン”であった。
レッドオーシャンとは、既に競争が激化して入る余地のない状態を言う。チャンスがないわけではないけど、基本的に参入は厳しい。逆に“ブルーオーシャン”という言葉もある。こちらは、競争相手のいない方を指すので早めに基盤を作れれば、富豪を物にできる大チャンスがある。でも、これが中々難しい。ほぼ運だな。
「まあ、俺は家で飼ってる『猫動画』を投稿して、小遣い程度を稼いでいるだけさ」
「えー! 賢って猫飼ってるの?」
「まあな、婆ちゃんの猫でね。でも、動物系の動画はもう“レッドオーシャン”でね。再生数に伸び悩んでいる状況だ」
「あとで教えて、見てみたい」
「会社に着いたら教えるよ。というわけだ、俺は
そうだ、それが今の最大の目標。
ここまで来たんだ、撤退の二文字はあり得ない。あるのは『成功』だけだ。
「そうだね、あたしは秘書として賢の背中を追い駆けていくから」
ぎゅっと俺の腕に絡みついてくる璃香。頭をこちらに預け、安心しきった表情をしていた。ここまで信頼してくれるとか……正直、嬉しすぎて涙が出そうだった。
◆
璃香は俺から離れず、ずっと腕を組んでくれていた。
「もう土曜日も終わりかぁ」
「休みってあっと言う間ね。そうだ、ウチの会社の休みを週休三日制にしない?」
「どこのホワイト企業だよ。いや、それを目指したいけどね……まだ早いな」
「だよねー。まあいいや、あたしは賢と居れれば幸せだもーん」
「お、おう」
嬉しすぎてニヤケ顔になりそうだった。……あぶないあぶない。そんな情けない顔を璃香に見せるわけにはいかない! 社長として!
九階に到着すると、壁に寄り掛かる菜枝の姿があった。
「おかえりー、賢さんとお姉様!」
「おう、ただいま――って、お姉様!?」
菜枝が変わった呼び方をするものだから、俺は驚いた。お姉様って、今の時代ではあんまり聞かないぞ。
「あは、あははは……」
「笑って誤魔化すな、璃香。菜枝にそう呼ぶように指示したのか?」
「ううん、するわけないじゃん。菜枝ちゃん、お姉様はヤメテ。あたしの事は名前でいいから」
なるほど、菜枝が勝手にそう呼んでいたか。
「えー、でも……う~ん。分かった、璃香さん」
「うんうん、それでいい。菜枝ちゃんは素直ね」
「だって、璃香さんって、私の目指しているギャルそのものだもん。かっこいいっていうか、可愛いっていうか!」
「そ、そう?」
「そうだよ。だから璃香さん、女子力アップするスキルとか教えて~!」
「仕方ないなあ。じゃあ、後で菜枝ちゃんのお部屋にお邪魔するね」
「わーい! 約束だよ。じゃあ、賢さんまたねー!」
菜枝は元気よく部屋へ戻って行った。子供のように
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