カラオケ店の個室にて

 ラインで菜枝にコール。

 すぐに繋がった。



『はーい、こちら菜枝です』


「おう、菜枝。今から璃香とカラオケに行くが、お前も来るか?」

『カラオケ! めっちゃ行きたい……けど、頭痛がね。今日、ゲームやりすぎてもう疲れちゃった。部屋でゆっくりするよぉ~』


「分かった。璃香曰く、会社のセキュリティは万全らしいし、警備員のおっちゃんもいるし、安心してくつろいでいるといい。困った時は電話してくれ」


『りょうかーい』



 ……ガチャっと電話は切れた。


「というわけだ、璃香。菜枝は疲れて来れないってさ」

「そか。じゃあ仕方ないわね。あたしと二人きりでデートだ♪」


 ニッと真っ白な歯を見せ、璃香は笑う。めちゃくちゃ嬉しそうだ。本音を言えば、俺も嬉しい。璃香の事ももっと知りたいし、良い機会だ。


「そ、そうだな。行くか」

「うんうん」



 ◆



 聖町の中を歩くと、ほぼ振り向かれる現象に見舞われた。以前から多かったけど、やっぱり璃香は目立つ。俺なんか映す価値なしレベルの透明人間扱い。


 それを表すかのように、前からやってくる茶髪のチャラ男。


「ねぇ、そこのお姉ちゃん、可愛いね!」

「……」


 もちろん、璃香は無視する。

 相手をするのが面倒らしい。

 だけど、相手も中々引かない。


 どうしても璃香を手に入れたいらしいが、本人は次第に苛立ち、相手を殺人鬼のような目で睨む。すると、ビビってどいつも逃げ出していた。



「人気者だな、璃香」

「……ああいうナンパっていうの? うざいんだよねぇ。ていうか、賢と手を繋いでいるのに、どーして声を掛けてくるの! おかしいでしょ」


 そうなんだよな。俺と璃香は恋人のように手を繋いでいた。にもかかわらず、男達が“そんなの関係ねえ!”と言わんばかりに寄ってくるのだ。やれやれだな。



 ――ニ十分ほど歩いて『みけねこ』というカラオケ店へ入った。アプリ会員登録を済ませ、二時間コースを選択。個室へ入った。



 室内は、五畳ほどのスペース。最新のカラオケ機種と大画面のディスプレイがあった。ソファもフカフカだな。適当な場所に座ると、璃香も隣に座った。



「ち、近いぞ……璃香」

「いいの。それより、このお店って『ソフトクリーム』が無料で食べられるんだよ。すごくなーい」


 持ち込みOKのドリンクバー別料金のこの『みけねこ』は、ドリンクバーを付ければ、ソフトクリームも食べられた。料金は+300円ほどと良心的。今回は付けた。なので、テーブルには、ソフトドリンクとソフトクリームが並んでいた。


 璃香は、こういう事に慣れているようで、ドリンクのグラスも三個も持ってきていた。多いな。



「なあ、璃香。ドリンクそんなに飲めるのか?」

「あー、これ。ミックスとかするの。まぜまぜ~ってね」

「な、なるほど」


 ギャルらしいというか、何と言うか。

 納得していると、璃香はスプーンでソフトクリームをすくい上げた。それを、俺の口元へ。


「はい、あ~ん」

「えっ」

「ほら、食べて♡」


「あ、あ~ん」


 ぱくっと戴いた。

 もう慣れたからいいけどさ。

 うん、美味い。ソフトクリームって、なんでこんな美味しいんだろう。いくつでも食べられちゃうよ。



「うんうん、賢ってば良い食べっぷりね」



 璃香は、そのままスプーンを使用していた。……俺が口に含んだスプーンを璃香が……ちょっと興奮した。


 ソフトクリームを味わい、カラオケを開始。それぞれ名曲のアニソンを入れて歌い始めた。……って、この璃香の入れた曲はボカロじゃん!

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