キス、したい?

 風呂を出て、ふと気づく。

 そういえば、飯を買っていない。

 キッチンとかもないだろうし……いやそもそも、材料もないしどうしたものか。


「腹減ったな」

「こんな事もあろうかと――はい」


 近くの棚を開けると、そこにはカップ麺とか缶詰がびっしり。なんだその備蓄品。災害用でもないだろうし。


「どうしてカップ麺が入っているんだ」

「あたしが好きだから」

「そんな単純な理由かいっ」


 まあいいか、腹を空かせたままよりも何倍も良い。この事を菜枝にも『ライン』で伝えた。アイツは、隣の部屋で快適に過ごしているようだな。



 電気ケトルで、サクっとお湯を沸かせて完成。カレーラーメンにお湯を注ぎ、三分待つ。


「ちなみに、テレビはなくてプロジェクターだから、ほら、あの白い壁」

「プ、プロジェクターまで付いてるのかよ」


 白い壁に映し出されるテレビ。

 なぜか映画が流れていた。


 あー、これ知ってる。



 いつの間にか四角い部屋に閉じ込められて、気づくともう四人くらい同じ境遇のヤツがいるんだよな。で、脱出を試みようとする。他にも部屋がある事に気づいて――どんどん移動していく。


 だが、その先には数々のトラップが存在した。その部屋に入ると死を意味したのだ。上手くトラップを回避し、そして、死闘も交え……意外な人物が生き残ったんだ。



「これ、ブルーレイか?」

「うん、あたしが見てたんだよ」

「つまり、この部屋って璃香の部屋なのか」

「そうだね、たまに使っているんだよ。だから、カップ麺も入れてたし、他の部屋も同じような仕様になってる」


 そういう事か。

 そんな映画を見ながら、カップ麺をいただく。脂肪燃焼の地味に高い烏龍茶も戴き、腹を満たした。



 ◆



 ――親父への連絡は完了。


 俺も菜枝も会社に泊まるよっ――と。ライン完了。すると直ぐに返信が帰ってきた。



『分かった。羽目は外し過ぎないようにな』



 遊びに来ているわけじゃないからな、それはないけど。……やれやれと、スマホをテーブルに置こうとすると『菜枝』からメッセージが来た。


 なんだ?


「どうした、菜枝」

『賢さん、部屋が広すぎて快適なんだけど……これちょっと寂しい! そっち行っていいかな』


「ふざけんな。璃香の相手ですら、俺は心臓が破裂しそうなんだ。お前はひとりで寝ろ」


 ――と、返した。

 数秒後には返信が。

 打つの早いな。



『えー! でもぉ……オバケでそうでさ~。夜、トイレとか行けないじゃん』

「子供か! そんな良い場所を貰っているんだ、贅沢言うんじゃありません」

『……分かったよ。でも、いざとなったらお願いね』


 まあ、一人で使うには広すぎる気もする。でも、本当に贅沢なヤツだな。これだけ快適な空間を独り占めできるんだぞ! 高校生で! 最高だろう。


 ベッドで寝っ転がってヤリトリしていると、璃香が寝間着に着替えてきた。てか、シャツだけだ……。さすがに下着はつけているだろうけど。


「あれ、賢。誰かとライン中?」

「あ、ああ……菜枝からな。心配はないってさ」

「そっか。じゃあ、一緒に寝よっか」


 隣に飛び跳ねてくる璃香。

 良い匂いがして、俺はドキッとした。

 しかも顔が近い。

 なんなら、谷間も近い……。


「こんな広いベッドなんだ。もうちょい離れてくれよ」

「あ~、賢。顔が赤いよ」

「そ、そりゃこの距離ならな……健全な男子なら、ほぼ100%ドキドキする」


「へぇ、そうなんだ」


 なんだその揶揄からかうような表情。この小悪魔め。――って、顔をどんどん近づけてくるし、なんなら唇が目の前に……わぁ、柔らかそうって、ちが~~う!!


「ちょ、ちょ……璃香!」

「キス、したい?」


「…………キス?」


「うん。いいよ、賢なら」

「……璃香」

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