目覚めのキス
心臓の音がうるさい。
周囲の音が掻き消える程に心音だけが響いている。
俺が……キスを!?
女の子と付き合った事もない俺が?
無理だろう。
経験皆無の俺にいきなりキスは、難易度が高すぎる。童帝と名高い俺だぞ。無理無理。
「どうした、賢」
「す、すまん!! やっぱり無理だ」
「そっかぁ、やっぱり経験ないんだ」
「う、うるさいな。なくて悪いか!」
「ううん。
「そりゃそうだ。年齢イコールで彼女なんていた事がない。それに、璃香と会うまでは女子と手すら繋いだことないぞ」
「へえ、あたしも未経験だから、良かったな」
――へ。璃香も初めて?
嘘だろ。この激カワの金髪ギャルが!? ありえねー。空から魚が降ってくるよりも、ありえねー。ちなみに、とある地域では魚が実際に降ってきたらしい。確か、ファフロツキーズ現象というんだとか。
「冗談はよせ、璃香。お前ほど可愛いヤツに彼氏がいなかった? んな馬鹿な」
「本当だもん。……言っておくけど、処女だよ」
「なッ」
璃香は顔を真っ赤に。
次第にシーツで表情を覆っていた。
恥ずかしいなら言うなよ。
反応に困るぞ、それ!!
「もう、なに言わせてんの!」
「……璃香がキスを求めたせいだろう。もう、ナシナシ! この話は一旦ナシだ」
「そ、そうね。ちょっと暑くなっちゃったし、お風呂入り直してくる」
ロボットのような動きで璃香は、ベッドから降りていく。なんがガチガチだな。てか、俺も死にそうなくらい心臓がバクバクしている……。
◆
――気づいたら眠ってしまっていた。
これといって夢も見ずに目を覚ました。
「……土曜日か。てか、ここ、どこだっけ」
思い出した。
ここは株式会社となる予定の『アーク』である。俺の会社だ。そのホテル仕様となっている九階だった。こんなだだっ広いベッドで目覚めるとはな。
寝心地が最高でした。
璃香の姿がないな。
風呂へ行った後、アイツはどうしたんだ?
推理してみよう。
①恥ずかしくて別の部屋へ移動した
昨晩あんなキス寸前までいったんだ、ありえる。
②風呂かトイレ
一番無難なつまらないオチ。
③シーツの中
まさかの俺にべったり張り付いているパターン。
さーて、どれかな~…。
「さとる……好きぃ」
「え……なんか聞こえたような――って、うああああああああああああああああああああああああ!!」
③シーツの中でした!!
なんか少し重みがあると思ったら、俺にべったり張り付いて密着していた。薄着だから、この世とは思えない、とんでもない感触が俺を襲う!!
あー、だめだ、だめだ、だめだ! これはイカン!! 俺の心臓がもれなく風船のように割れてしまう!!
なんとか脱出しないと!!
「……ちゅ~して」
寝惚けているのだろう、璃香の唇が猛接近してくる。
「だめだあああああああああああ、無理だああああああああああ!!!」
辛うじて回避し、口と口との接触は避けたが――ほっぺに当たった。……結局俺はキスされてしまった。頬に。くどいようだが、頬に!
……幸せ。
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