5-2 情報集め
「まずは情報収集ですよね。勇者様がそう言っていました」
「いや、この町でそんな情報を集めると怪しまれるかもしれない。そんなに気にするのは変だと思われて、捕まったら何もできなくなるかもしれない」
「そうですかね。町の祭りに興味あるんだなってなりませんか?」
「……そうか。じゃ、サラはそうしてくれ。俺は俺で別に情報を集めるから」
突き放した言い方になったが、サラの聞き方であれば、彼女の言ったとおりになる可能性が高いと思った。世留が祭りを気にするとなると怪しいと思われるかもしれないが、サラのテンションや人柄で言えば、純粋に祭りの内容が気になっていると思われるかもしれない。だから、彼はサラにそう言った。サラは彼がついてこないことに少し寂しさを感じたが、自分が言い出したことなのだからそれくらいは我慢することにした。
世留と別れたサラは様々な人に声をかけていた。聞けた話は大体同じだった。
ホシのヨルという祭りは、一年間魔獣に町が襲われないようにするために行われる祭りである。ここらの地域で語られるホシビトという神様が町に魔除けの加護を与えているらしく、その加護を与えてくれる代わりに、町の中の美しい娘を生け贄にするというのだ。そして、今回の祭りの生け贄は、
話を聞く度にサラは怒っていた。それを表に出さないようにはしていた。いくら話を聞いても、それ以上の情報はない。例えば、祷花の居場所を聞こうものならすぐに訝しげに見られて、手を振って追い払われる。普段なら、それでも積極的に訊くのかもしれないが、世留にあまり目立つと捕まえられるかもしれないという言葉を思い出して、追い払われたらそれ以上は訊かないことにして、引き下がっていた。
彼女が情報収集している間、世留はタービュライのところに戻ってきていた。そして、この祭りをぶち壊そうとしていることを話した。タービュライの商人の考えからすれば、他人に深入りすることはご法度だが、この町の祭りには正直、腹が立たないでもない。しかし、彼が表だって動いてしまうと、商人としての信用度が下がるかもしれない。それは彼の人生を棒に振ることになってしまうのだ。世留たちとタービュライの間にはそこまでの絆はないのだ。それをタービュライは世留に不快な思いをさせないような言葉遣いで伝えていた。世留は彼の気遣いも理解して、予想の範疇だと考えていた。しかし、その話が終わって数十秒後、タービュライが口を開く。
「表立っては動けませんが、影で動くくらいならできないこともなさそうです。それでよければ、協力させてください。正直、生け贄というのはどうにも、気にくわなかったのですよね」
彼の言葉から怒りが伝わってくるが、それが本心なのかはわからない。商人を完全に信用するのは難しい。だが、世留は彼の怒りを信じることにした。まずは情報だが、元々タービュライが持っている祭りの情報はサラが聞いたものと同じだった。祷花の居場所の情報は彼も持っていない。というか、その情報は誰も話してはいけないし、知っている人も少数のようだった。
「つまりは、探せない場所かもしれないってことか」
面倒くさいが、方法がないわけでもない。夜になれば、少しは動きやすくなるだろう。今の彼は夜の闇に紛れるのは容易いことだ。彼は夜に動くことを決めて、昼はおとなしくすることにした。タービュライは黒い仮面と黒い外套を荷物から取り出して、世留に見せた。
「まぁ、殺しと盗み以外の仕事ならたまに請負ますからね。こういうものがあると楽なんですよ」
彼はいつもの快活な笑顔なはずなのに、その顔に影があるように見えて、どこか怖い。彼があれだけのお金を持ち、商売人として成功しているのは、ただ物を売る才能があるというだけではないのかもしれない。世留はそんな風に思った。そして、悪い面もある方が、人として信用できるとも思った。
サラが荷馬車まで戻ってきて、彼女が聞いた話を二人にした。もちろん、彼女が聞いた話は既に二人も知っていたが、それをわざわざいうことはなかった。
「サラは世留はここで大人しくしていてくれ。俺たちは、少しこの町を調べてくる。その間、この馬車に人が来たら、適当に追い返してくれ。荷物番がいないと、商品gが勝手に持っていかれるかもしれない。それは可哀そうだろ」
「そうですね。わかりました。可愛そうなことは起こしたくありません。私に任せておいてください!」
彼女は胸に手を当てて、自信満々にそう言い放った。その様子は少し心配になるほどだ。彼女はあまり口の回る方ではない。それどころか、相手が無理やり馬車に乗りこもうものなら、きっとメイスでぼこぼこにするだろう。だが、この村からはすぐに出る予定だ。殺さなければどうとでもなるだろう。それに彼女が治癒師なのだし、彼女が回復するだろう。適当なことを考えながら、三人はそれぞれ夜にすることを決めた。
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