5 村の祭りには

5-1 面倒事

「どういうことですか。この町から出られないというのは」


「申し訳ありません。三日後に行われるホシのヨルという祭りが終わるまでは、何人も村から出ては行けない決まりなのです。入る前に担当の者がお伝えしませんでしたか?」


 あの適当な門番を思い出す。門番はそんなこと一言も言っていない。荷物の確認も適当にしていたし、きっと説明するのが面倒くさかったのだろう。村人たちの嫌な視線ももしかすると、そのホシのヨルと呼ばれる祭りがあるのに村に入ってくるのは変だと思っていたのかもしれない。


「剣士さん、どうします」


「どうもこうも、出られないんだから、この村にいるしかないな」


 さすがのタービュライも世留の言葉に困った笑顔になっていた。




 材料の布を全て、建物内に運び、彼らは村を出ることにしたのだが、そこで門番に止められたのだ。その門番は、この村に入ってい来る時ときに荷物の検分をした男とは別の男だった。最初の門番とは違い、物腰が柔らかく、丁寧に事情を説明してくれた。その事情と言うのが、ホシのヨルという祭りのことだ。この祭りの準備が始まった段階で、この村から人を出してはいけないという掟があるらしい。その掟を破ったものは星に振られて死ぬという言い伝えがあるそうで、その言い伝え通りになった場合には責任が取れないということで無理やり、この村に残ってもらうそうだ。普段なら、門番がその祭りのことを説明して、旅人には帰ってもらったり、荷物があれば、門番が受け取ったりするはずだが、彼らの相手をした門番が良くなかったらしい。彼らは結局、この村から出ることは出来ず、村に滞在するしかなかった。


「祭りは久しぶりです。この国の祭りは初めてですから、どんなものが見られるのか、今から楽しみですね!」


 三人の中で、サラだけはその事情を説明されても困惑することはなく、それどころか祭りを楽しみにしている様子。彼女のいた国では祭りはいいことなのかもしれないが、ここらでは祭りに言い印象を持っている人は少ないと言っていいだろう。ここらの地域での祭りは基本的に神に生贄を捧げて豊穣を祈ったり、村の安泰を祈ったりするものである。生贄は死にはしなくても、一日中踊り続けたり、一か月以上飲まず食わずで祈り続けたりしなくてはいけないのだ。その間、外の連中は酒を飲んで騒いでいるわけだ。


 サラならば、可哀そうなことが起きそうな雰囲気を嗅ぎ取りそうなものだが、まだ見ぬ祭りの誘惑のせいで、そんなものは機能していないようだった。世留は元々、この地域出身であるため、そこまで生贄については気にならない。タービュライはこの村とはあまり関わりあいにならないと決めていた。こういうその場所にとって大事なイベントに関わるとろくなことにならないことを今までも商人の旅で知っているのだ。


 三人はとりあえず、馬車に戻る。今回はタービュライも荷台の方に座っている。彼らは何をするでもなく、ただじっとしているだけだった。何もすることがない。そもそも、閉じ込められるなんて予定はなかったのだ。この村での予定は決めていない。


「村の中を見て回りませんか。きっと、祭りの準備をしていますよ」


 サラは提案しているつもりだったのかもしれないが、その目を見れば楽しみと言う文字が書かれていると言っても過言ではない様子だった。


「ワタシはこのまま荷物を見張っていますから、どうぞ、お二人で探索してきてください」


 タービュライにはそのつもりはなかったが、世留からすれば、面倒ごとを押し付けられたような感覚になった。しかし、この楽しそうなサラの提案に反対しても、きっと一人で村の探索を始めるだろう。一人で行かせるよりましな選択だと自分自身に言い聞かせて、彼女と共に馬車を下りた。


 町は祭りの準備が進んでいるようだった。町の広場には人が集まり、忙しそうにしている。


「そういえば、この祭りでは何をするのですか?」


 にこにことしながら、世留に訊く。しかし、彼が知っているはずもないが、良くないことである予感はある。彼がそんなことを考えている間に、サラはそこで仕事をしている人に声をかけていた。彼女は今の疑問を訊いているのだろう。村人は不快そうな顔をしながら、彼女の疑問に答えていた。そして、驚いて叫んで、怒られて肩を落として世留の方に戻ってきた。


「世留、救いたい人ができてしまいました。この祭りはおかしいです。人柱なんて古いですよ!」


「そうは言っても、ここら辺じゃ当たり前のことだ。おかしなことじゃない」


 サラは彼の言いたいことがわからないわけでもない。だが、納得はできない。


「……だが、俺も納得はできない。助けるのはいいが、また逃げることになるな」


(遊羽みたいな犠牲を俺の目の前で見過ごせないし、仕方ない)


 彼の言葉にサラは落ちていた肩をあげ、目を輝かせた。

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