4-5 荷運び完了
「そろそろ、目的の村に着きますが、お二人はどうしますか。ワタシは依頼されていた材料を村に置いたら、すぐに次の町に行こうと思っていますが」
世留は彼の言いたいことがわからず、黙ったままでいた。依頼としてはこの村までの護衛と言うことだったはずだが、世留としてはこの村に置いて行かれても、次に目指す町すら決まっていないのだ。都に行きたかったが、都から離れているかもしれないため、最終的な目的地は都だが、今は先に他の村を回りたいと考えている。そうすれば、タービュライに付いて行く方がサラにとって移動が楽になるだろうし、寝床も確保できる。交渉次第では、食料も彼から買うこともできるかもしれない。
「……あの、よろしければ、このままワタシと一緒に来てもらえませんか? あなたの実力であれば、他の人に頼むより確実に守ってくれそうですし。まぁ、無理にとは言えませんが」
「わかった。その代わりと言っては何だが、食料を買わせてほしいんだが、いいか」
「ええ、わかりました。では、交渉成立と言うことで。これからもよろしくお願いします」
「ああ、宜しく頼む」
こうして、世留とサラはタービュライの商売の旅の護衛をすることになった。情報収集するという大きな目的を持っている彼らは商人の旅とは相性がいいだろう。多くの人と関わる商人には情報も集まりやすい。彼を守るだけで報酬も支払われるというのだから、世留にとっては得ばかりかもしれない。護衛するだけなら、今の彼には苦労はないのだ。
盗賊から救われたサラは盗賊と会う前と同じように世留の隣に座っていたが、さすがの彼女も盗賊に襲われた後に眠ることが出来るほど、神経は図太くはなかった。しかし、彼女が眠ることができない理由は盗賊に襲われて人質にされたからではない。彼女は人質にされたときに恐怖心が沸く暇もなく、いつの間にか攫われて、いつの間にか助けられたのだ。世留の手が、自分の腕を握った感触がそこに残っているような気がしている。その感触を意識すると、少しだけ心臓が強く脈打つ。それがなぜ起こるのか、全く理解できていないが、不快ではないため、放っておくことして、彼女は大人しく彼の隣に座っていた。
盗賊から襲われた場所から、しばらく馬車を進ませると、村が見えてきた。そこまで大きくはない集落だが、木製の丸太が地面に突き刺さり、それが隙間なく村の外周に並べられていて、頑丈で巨大な柵の役割を果たしているようだった。その柵のせいで村の中は見えない。
「あの村です。着いたら門のところで荷物を見せますので、そこで一度、馬車から降りましょう。荷物の確認をしてもらえるはずですから」
彼の言う通り、村の手前で馬車から降りて、門のところにいた屈強な男性が荷物の確認をしていた。男はぱっと荷物を見るだけで、それで荷物の確認が終わったらしく、通ってよしとの声がかかった。世留は荷物の検分がこんなに簡単でいいのだろうかと思ったが、きっとこんな田舎を襲うものはいないと考えているのだろう。村を襲うとすれば、魔獣くらいの物だろうから人間は適当に見て、中に通しているのかもしれない。そもそも、世留が生活していた村には簡易的な柵すらない。誰でもなんでも勝手に入って勝手に出ていける村だった。
「それじゃ、中に入りましょうか」
タービュライが、御者台に乗らずに手綱を握って、馬を引きながら村の中に入っていく。世留とサラもそれに付いて行く。村の人からは嫌な視線が向けられているのに、世留とタービュライは気がついていたが、それを気にして気弱になるなら、商人や旅人はできないだろう。
タービュライが一軒の建物の前に来た。木製の扉をゆっくりと開いて、木の枠の部分を軽く叩いた。
「すみませーん。布など、依頼されていたものをお持ちいたしました。誰かいらっしゃいませんでしょうか」
「ん? ああ、ありがとう。すまないね。すぐに出られなくて」
奥から出てきたのは、腰の曲がった女性。その様子から高齢に見えるが、身なりは綺麗で髪にも白髪はなく、若々しい。
「いえ、こちらこそ、いきなり声をかけてしまってすみませんでした。荷物の確認をお願いしたいのですが、よろしいでしょうか」
「ああ、すぐにでも欲しかったんだ。これが、依頼料だ。足りるかい?」
女性が持っていた巾着ともいえるような大きさの袋をタービュライが受けとり、その袋を失礼しますと断りを入れてから、中身を覗いた。札を取り出し、素早く数えて、硬貨を確認した。
「えと、少し多いようですが」
「手間賃だと思って、受け取っておいてくれ。さ、荷物をおくれよ」
タービュライはいつもの快活な笑顔で、女性を馬車の前まで案内して、頼まれていた布などの材料を彼女に確認してもらう。彼女は再び、お礼を言って、その材料を全て、持とうとしたのをタービュライが止め、彼がその荷物を建物の玄関部分にあった机の上に運んだ。それで仕事は終わりで、タービュライたちはその建物から離れていく。
「仕事も終わりましたし、この村を出ましょう」
世留はそれに反することもなく、素直に頷いた。
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