4-4 護衛の依頼
森からがさがさと音がする。世留は意識を外に向けた。それとほぼ同時に、タービュライが声をあげた。
「盗賊です! 剣士さんお願いします!」
盗賊の一人が馬車の前に立つ。馬が驚いて、嘶き止まりそうになる。タービュライが馬に走れと手綱から指示を出したが、馬はそれを無視して停止した。
「悪いが、あんたも死んでもらうぜっ」
馬の前に立った盗賊が短剣をタービュライに突きだした。御者台の上では回避などできない。だが、相手の短剣が彼に届くことはなかった。その短剣は、黒い刀の側面に当たっていた。刀を少しずらして、短剣の下にいれて、刀を上に弾きあげた。短剣は相手の手から離れて、空を飛ぶ。そのまま、刀を前に突きだして、男の腕に切り傷を作る。かすっただけはずなのに、その傷は骨が見えるほどの傷になった。そんな切り傷ができれば、血が吹き出すのも当然だった。
「あ、あぁあ!」
自分の腕から血が吹き出た光景を見て、冷静でいられる人はきっといないだろう。いくら盗賊でもそれは変わらない。もはや、その男は戦闘どころか、しばらくは動くこともできないだろう。
彼がそんなことをやっている間に、馬車には二人の男が近づいていた。世留の背後から、マチェットが近づく。さらに、上からは斧が落下してくる。その武器が世留に届くことはなかった。マチェットは根本から綺麗に切られて、剣身は明後日の方向に飛んでいく。斧は粉々になって、風に乗って散らばった。
「は」
「んなっ」
男たちは驚いて、一瞬硬直する。歳を取った男はすぐに身を低くした。しかし、もう一人の男は呆然としているだけで、すぐには動かなかった。そのせいで、上半身と下半身が綺麗に分離した。空を舞う上半身から、自身の下半身が倒れていくのが見えた。そして、押さえることなどできないほどの血が、分離した体から飛び出した。男はそれを驚くほど冷静に見つめていた。それから、間もなく意識がどこかに飛んでいった。
その一瞬で、最後の一人が単純な攻撃では勝てないと思ったのか、馬車で寝息を立てている女性の腕を掴んだ。その女性を馬車から引きずり出して、首に腕をかけて今にも首を折ろうとしていた。サラは寝起きでこの状況を理解できず、目を白黒させている。
その行動は世留でなければ、有効な手段だったかもしれない。しかし、世留に対しては確実に悪手だった。まず、一つ。彼女の首を閉める腕が細切れになった。サラを血がつかないようにその血すら斬って何も残らない。彼はゆったりと近づいていく。男は腕がどうなったのかも理解が及ばず、その場に呆然としている。世留はサラの腕を取り、自分の後ろへ誘導する。状況を理解できないサラは彼の誘導に抵抗することもない。そのあと、男の体には少しずつ切り傷がつけられていく。痛みが感じられるギリギリのラインで傷の深さを調整していた。
「へへ、てめぇがどれだけ俺を痛めつけようと何も感じないんだ」
「関係ないな」
全身に切り傷がつけられて、血だるまとなっても、相手は苦痛ではないのか、平然としていた。結局、世留は手、右足、左足と切り落として、腹を斬って臓物を飛び出させて、最後に首を二度切り落とした。血の池になったそこから黒い刀が血を吸っていく。最後まで生きていたのは最初に腕だけ切られた男だけだった。生きていると言っても、もはや生存しているだけで、石像のように動かない。
「……流石に、お強いですね。ここまでとは思わなかったですけど。明らかにオーバーキルですね。はは」
乾いた笑いが自然に出るほど、圧倒的で残酷な光景だ。タービュライは男たちの残骸を調べていた。何か値打ちのあるものがないか、使えるものがないかを調べているのだ。彼は根からの商人で、取引をする人にはしっかりと応対するが、それ以外の、特に商売の邪魔をするものには容赦がない。彼の店から物を買わないようにしたある町の商人の取りまとめ役はタービュライによって完膚なきまでに社会的に殺され、生活できなくなり、最後は奴隷に身を落とした。だが、反対に彼のお得意さんになれれば、どんな方法を使ってでもほしいものを手にいれてくれる商人でもある。現在、彼を知る商人は彼に取り入る方を優先して行うものがほとんどだ。
「すみません。お待たせしました」
「めぼしいものでもあったのか?」
「いえ、予想通り、安っぽいものしか持ってませんでしたね」
死体漁りをしてもなお、彼は快活な笑顔で世留と話していた。そのまま、平然として御者台に乗って、手綱を握る。すでに落ち着いている馬はゆっくりと歩き出した。
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