4-3 盗賊たち

「おやっさん。あれです。うちらの頭をぶっ殺しやがった袴の男が乗ってるみたいだぜ」


 世留が乗る馬車を道から離れた森の中から覗く男たちがいた。獣の毛皮を適当に服に仕立てた蛮族のような服装。そんな男が四人ほど。一人はその中の誰よりも屈強で、かなりの修羅場を潜ってきたのが、雰囲気でわかるだろう。 


「油断するな。護衛につけたしたっぱは強かったはずだ。そいつらも殺していたんだ。絶対に殺せるタイミングでやるんだ」


 おやっさんと呼ばれていた男が他の三人に言い聞かせていた。その言葉に三人の男は深くうなずいた。


 彼らはあの小さな集落の管理者だった男が作った盗賊団のメンバーだった。おやっさんが副団長だ。頭が殺されたけじめを世留につけさせようとしているわけだ。彼らは四人しかいないわけではない。他のメンバーは違う役割を当てられていて、今は世留を倒す計画には参加できないだけだった。そのまま、四人は馬車の後をつけていく。




 狙われている世留は未だ、馬車の中で大人しくしていたが、遊羽の亡霊が外を気にしているようなそぶりを見せた。亡霊が自らそういう動きを見せたときは何か起こることが少しの間の経験でわかっていた。世留は少しだけ外に気を向けることにして、馬車の中で大人しくしていた。


 魔獣が出たときはこういう様子は見せてこなかったので、遊羽の亡霊が勝てる魔獣ではないのかもしれない。殺すのに、ためらいが生まれるような相手。例えば、人間だ。タービュライが盗賊がでるかもしれないと言っていたのを思いだす。そう言うのが出てくる可能性も頭の片隅に置いておくことにいした。何にしろ、そのトラブルが起こってから出ないと、警戒するという対処しかできない。




「おやっさん。あの馬車からなんか嫌な感じがするッスよ。あれだけは手を出しちゃいけないかもしれないッス」


 監視している四人の中の一人が怯え始めた。顔を青くして、馬車から目を背けている。彼の話す言葉も振るえている。しかし、そんな様子の団員に他の三人は、馬鹿にした目を向けた。


「何言ってやがんだ。あれが怖くて盗賊なんてできるかって。あの集落の周りでもっとすげぇ貴族を襲ったりしただろうが。そんな奴らがあんな見た目平民みたいなやつに怖気づいてんじゃねぇ」


 おやっさんが頼もしく、胸を張って彼に説教をする。盗賊は盗賊のプライドがあるのだ。世留もそうだが、馬車も貴族が乗るような小奇麗なものではないのだ。盗賊たちがそう言ってしまうのもわからなくはないだろう。しかし、怯えている彼だけは、今は既に戦いたくないと思っていた。普通の人間に見えるだけで、普通ではない。どこか、自分たちとは違う恐ろしい何かを持っているかもしれない。それが、自分たちの命を脅かすようなものだと考えるだけで、今すぐ逃げたいと思えただろう。


「ちっ。じゃ、おめぇはもう来るな。町に戻って違う仕事でもしてろっ」


 怯えた彼をその場所から追い出して、残りの三人は馬車を追いかけた。




「まったく。しょうもない奴だぜ。ねぇ、おやっさん。あんなみすぼらしい男を怖がるなんて」


「そういうな、あいつは元々こういう人殺しは苦手だろ。それより、詐欺の商売の方が向いてんのさ。口八丁手八丁で、旅人に物を売りつけるんだ。あいつにはあいつの得意なものがある。おめぇらにはできないことだろ?」


「ま、そうですね。俺だってあいつのことは仲間だと思ってますよ。少しからかいたかっただけですって。あいつのお陰もあって、金には困ってねぇってのはわかってるつもりです」


「そうかい。それならいいんだ。頭も死んじまったし、喧嘩みたいなのはしばらくなしにしてくれよ」


 三人は馬車を追いかけながら、帰った一人の男のことを話していた。そこにいる三人は帰った彼とは仲が良い。彼を馬鹿にしたようなことを言うのは、それ故だった。


「おめぇら。いいか、そろそろ、森が道を狭くする場所が来る。そこで仕掛けるぞ。どれだけ強くても、奇襲には弱いからな」


 おやっさんが凶悪な笑顔になる。それを見て、残りの二人も同じような笑顔になる。一人はナイフにしては、剣身が長い短剣を取り出し、もう一人は腰に止めていたマチェットを取り出す。おやっさんの武器は頭の小さな斧二本だ。投げることが出来る程度の重さで、取り回しもしやすい武器だ。


 三人の準備が終わり、世留が乗る馬車が盗賊たちが話していた地点に近づいていく。盗賊たちも緊張しているが、いつもやっていることであるため、動けなくなるほどではない。短剣を持っている男は太い木の枝に乗り、馬車を見張っている。その下で彼からの奇襲の合図を待つ。彼は下にいる二人に見えるように、指を五つ立てて、それを等間隔で折り、全ての指が畳まれたときに、前方を指さした。

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