4 商人と共に
4-1 路肩の商人
二人は何もない道を進んでいくだけで、景色は全く変わらない。遠くに集落も見えてこない。たまに人とすれ違うが、挨拶などはされず、本当にすれ違うだけだ。そして、すれ違う人は大抵、一人で旅をしているような風貌で、この先に都があるとは思えない。そう予想したが、世留はその先に集落があると予想して、進むことにした。サラはただ、彼についていくだけだが、彼女は彼女でかわらない景色を楽しんでいた。彼女は普段、馬車で移動していて外の景色をゆっくり楽しむことは出来なかった。さらに、彼女の国の、町と町を繋ぐ道は整備されていて、こういった森や草原と言った生の自然を楽しむことは出来ない。だから、彼女にとっては、その変わらない光景が新鮮だったのだ。
二人がしばらく歩いていると、道の端に馬車が止まっているのが見えた。その馬車の近くに人がしゃがみこんで、その馬車に何かしている。二人は立ち止まらずに、その横を通り抜ける。その際に、しゃがみこんでいた人が少年のような見た目の男であることと、その男性が馬車の外れた車輪を直しているのが見えた。
「どうかなさいましたか」
世留はそのまま横を通り過ぎようとして、サラが何も反応しないことを願っていたが、様子がおかしい人を放っておくはずがないのだ。それに、困っていなさそうでも彼女は、可哀そうなことが起きているような場所を嗅ぎ取る、彼女しかわからない匂いに引き付けられるのだ。彼女の視界に、その馬車が入り込まずとも、彼女はこの場所に引き付けられていたかもしれない。
しゃがみこんでいた男性は、彼女の声に気が付いて顔を上げた。その顔は若々しく、十代後半か、二十代前半と言ったところだろう。黒い瞳と少し丸みを帯びた輪郭、体は華奢だが、筋力はあるようで健康的に見える。短い茶髪を風に揺らしながら、彼は不思議そうな顔をして彼女の顔を見ていた。やがて、声を変え蹴られたのが自分だとわかると、素早く立ち上がった。見た目通りの背丈で、世留やサラより背が低い。サラより少しだけ低いくらいだろう。
「あ、あの、ワタシ、に何かご用でしょうか?」
子供のような高い声。私、と言い慣れていないのか、そこだけ発音が変に聞こえた。しかし、子供で一人旅というわけではないはずだ。子供のように見えても、成人しているという種族は少なくないのだ。
「しゃがみこんでいて、困っているように見えたので、声をかけてしまいました」
「え、ああ、そうでしたか。ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ。車輪がひとつ、欠けただけですから」
世留は馬車の車輪が欠けるというのは、一大事ではないかと思ったが、もしかすると、旅に慣れているため、これくらいどうってことないという意味だと解釈した。そして、どうやらすでに車輪の修理は終わっているようだった。
「ご配慮、ありがとうございました。あなた方はどこまでいかれるのですか?」
サラが世留に視線を向ける。彼女自身は目的地は知らない。行く先を決めているのは、彼女ではないのだ。視線を向けられた世留も目的地は決めていないのだ。あの集落を出たところから、どこに向かって進んでいるのかわからないのだ。
「特に目的地は決めてない」
世留は特に嘘を吐く必要はないと判断した。だが、それが裏目に出ていることに次の言葉で気がついた。
「では、次の集落までの護衛をお願いしたいのですが、よろしいでしょうか」
そういう彼の言葉には、もはや最初に会った印象はない。堂々としていて、世留は子供かもしれないという、頭の隅にあった考えを捨てる。油断ならない相手かもしれないと気を引き締める。
「護衛? ここまで、教われなかったならここからも大丈夫じゃないか?」
「いえ、ここから先は盗賊が出るという話もありますので、剣士の方がいると安心かと思いまして。ああ、ちゃんと報酬も払いますよ。払える証拠です」
彼はそういいながら、馬車から一万円札の束を見せつけた。その束は二十枚以上あるようだ。
「ああ、そうだ。ごめんなさい。ワタシは、タービュライと言います。ディプリットとヒューマンのハーフで二十七才の商人です」
世留は今までの、彼の行動の違和感に納得がいった。見た目と、彼の持つ雰囲気が合っていないと思っていたのだ。しかし、彼の自己紹介をきいて、合点がいった。そして、彼が商人であるなら、持っているのは物嵩ではないはずだ。世留は彼と行動を共にするメリットを見つけた。そして、彼の依頼に返事をする。
「わかった。護衛の任務は引き受けることにする。その代わり、俺の探しているやつの情報がほしい」
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