訪(ほうもん)
唐突に、俺のスマホが振動した。
いや、それは俺のスマホじゃない。
電話であるらしく、俺は電子端末を操作して耳に添える。
『よう、スノーマン。今はホテルか?』
開口一番。諫の声が聞こえて来ると予言者の様に居場所をピタリと当てて見せた。
だが、それは予言ではない。何らかの手品である筈だから、大して驚く事でも無い。
「コレのおかげか」
これ、とは電子端末だ。
電話の奥でくつくつと声を漏らして笑っている。
『ご名答、お前にやったスマホGPS付けてっから場所が分かるんだよ、それよりも、今、お前の所にランカーがやって来てるぜ』
次から次へと、俺に情報を齎す諫。
こんな時だと言うのに、お前らに構っている暇は無いんだよ。
「まさかホテルでバトルをしろって言うのか?」
尤も、それを言った所で止める筈が無い。
だから、さっさと終わらして現状の問題を済ます他なかった。
『そりゃあ、お前次第だ。ヤり合う場所はお互いの意志を以て決めるんだな…因みに、お前と戦う奴はな』
声が途切れる。
アプリの着信音が聞こえた。
唐突、と言うよりかは、タイミングが良い。
と言う事は、諫が操作したのだろう。
俺は耳から電子端末を剥がして画面を見る。
画面には、対戦相手の画面が表示されていた。
『ポイント13000、ランク20・ベイビーフェイスだ』
ベイビーフェイス…画面には顔写真が乗っている。
中性的で、栗色の髪を伸ばして纏めている。
本名は乗っておらず、『
「…」
とんとん。と。
廊下に続く部屋の扉をノックする音が聞こえて来た。
その音から察するに、すぐ先に、敵が立っているらしい。
「どうする?食べようか?」
肌を晒す零戸が俺の後ろから手を伸ばして体を抱き締める。
「やめろ…同じ人間だ。少なくとも、人の争いに顔を出すな」
俺はそう言って扉に近づく。
その瞬間だった。唐突に、扉の鍵と、蝶番が壊れると、扉が倒れる様に開き、其処から一人の人間が転がって俺に体当たりする。
俺の上に跨る栗色の髪に、白い眼帯を当てる、鮫の様な眼を持つ中性的な、性別の判別がつかない人物が、俺の首筋に鉈を添えていた。
「こんにちわぁ、スノーマンさん…いえ、敬基冬児、さん」
鉈は振り下ろされない。
あくまでも、俺の首に鉈を置いているだけだった。
「先程、シンドバッドさんにご紹介されてました。『
にこりと、少女の様な可愛らしい笑みを浮かべて自己紹介をするが、鉈が首から離れる事は無かった。
更に後ろから、スマホを此方に向けている、鼠色のパーカーフードを被る前髪が長い男が立っている。
『おう来たかベイビーフェイス。そして後ろに居るのはカメラマンのチェイサーだ』
チェイサー…追跡する者。
確かそういう意味合いだったか。
そう考えながら俺は倒れたままに言う。
「取り合えず…場所を変えようぜ」
鉈に手を添えて、力を以て押し返した。
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