醒(めざめ)

次に目が覚めた時、俺は再び、ベッドの上に寝転がっていた。

体を動かす。確か俺は甲冑の怪異による攻撃で体を複数貫通して、死に絶えた筈だ。

それなのに、俺には生きている感覚がある。

死から遠ざかり、俺は生まれたての子供が初めて呼吸をする様に息を開始した。


「一体…、なに、が?」


貫通した体に触れる。

指には、多少の陥没している穴の様な感触があった。

俺が貫通されていた筈の場所は、既に穴が塞がって皮膚でお覆われていたのだ。


「どういう、事、だ?」


体を起こそうとベッドに手を添える。

すると、柔らかな感触が掌から伝わってきた。

俺は顔を真横に向けると、其処には全裸姿となった零戸がすぅすぅと寝息を立てていた。


「ぁっ!?」


悲鳴のような女々しい声が溢れると共に俺はベッドから飛び出る。

俺の声に反応してか、零戸がゆっくりと体を起こした。


「んん、…、あ。起きたんだトージ」


トージ。彼女はさも自然な感じで俺の名前を呼んだ。

俺の上半身は裸であり、彼女は全身が全裸であった。


「お前、俺に何をしたんだ?」


「ん?あぁ、人命救助?」


疑問符を浮かべながら、零戸が眠たそうな瞳を掌で擦っていた。


「怪異に襲われてたから助けてあげたの」


「…そうか、それで、あいつは?」


あの甲冑の怪異。

聞いた限りであれば、怪異は十体存在するらしい。


「うん、食べた。今頃は私の中にで、ゆっくり溶かされてると思うよ?」


じゃあ、これで、あの甲冑の脅威は消え去った、と言う事か。


「じゃあ、お前を含めて、後九体、怪異がいるんだな…」


「え?私を含めて十体だよ?」


…あ?

いや、怪異を倒しただろ。お前は。


「…?」


…頭の中で喋っているのに反応してないな。

思考が読めてないのか?


「どういう意味だよ」


「え?あれは確かに怪異だけど…。弱い方だから。確かに私の様な怪異が封印されていたのは事実だけど、私よりも弱い怪異も封じられてたんだぁ」


おい、それってもしかして。

あの怪異は、お前よりも弱い存在で、その怪異が他にも居るって事なのか?


「その怪異は何体いるんだ?」


「え?分かんない。まあ少なくても百体くらい?」


百体。百体だって?

あの強さのレベルを持つ輩が、百体も居るのか、そんなふざけた話、ありえないだろ。

もしそれが事実なら、この氷泉市に怪異が現れたら、大混乱になるだろ。


「だいじょうぶ、怪異が来ても、私が食べてあげるから…。大勢の怪異を食べて、キミを守ってあげる」


四つん這いになって近づいてくる。

俺は彼女の目を見て、捕食者の様な視線だと、そう感じた。





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