終(おしごとのおわり)

家の中は簡素なものだった。

配送された段ボールの中には、インスタント商品が沢山入っていて、台所にはその食べた後のゴミが残っている。

それを洗い、全てゴミ袋に入れて、周辺を掃除機で吸う。


段ボールを纏めて、玄関前に置いたりして、約二時間程、俺は掃除をし終える。

汗が流れるので、俺は額を拭って立ち上がると、自室へと引きこもる真鯉さんの元へと向かい、ノックをする。


「すいません、終わりました」


顔を出さなくても良いのだが、俺がそう言うと、真鯉さんが顔を出して来た。

眼鏡の縁を指の腹で持ち上げながら、彼女は俺の方を見ている。


「終わった?…ありがとうございます…えぇと、それじゃあ、お疲れ様です」


そう言って、真鯉さんはスマホを持って画面を指で叩いている。


「お仕事…終わった報告をしましたので…これで終了です」


そう言った。

俺は頷いて、軽く体を伸びをする。


「はぁ…じゃあ、失礼します」


「はい…ありがとうございました…また、来てくださいね」


玄関前まで来た真鯉さんが手を軽く振って別れの挨拶を交わす。

俺も頭を下げると、玄関の扉を閉めた。ゴミ袋と段ボールを持ったまま、俺は夜道を歩き出す。


「あぁ…疲れた」


今回は全うに仕事が出来た。

充足感に満ち溢れていて、吐き零れる暖かな白い吐息が溢れる。


このまま、夜道を歩き、ゴミを出して、俺はそのまま帰路に就く。

この調子ならば、三十分もしない内に到着するな。

とすれば、俺が家に帰れるのは21時頃と言う事になる。

俺は呆然とスマホの光に映し出される時刻を確認しながら歩いていた。


「…」


そう言えば、零戸。

アイツは、怪異がこの街に出現していると言っていた。

今は被害が無いし、その様な報告も聞いていない。

だから、慌てる様なものではないのだが…現状では、これは危険なのではないのだろうか。

などと考えながら戻っていくと、丁度良い所に、コンビニを見つけた。


「あぁ…暖かそうだ」


コンビニから零れる暖かな光。

缶のコーンポタージュでも買って帰ろうかと、俺はそう思った。

その時だった。


「…あ?」


カツカツと。音を鳴らしながら近づいて来る武者の姿があった。

俺の目は正常だ。それが幻覚である筈が無い。

一目で分かる、それは、零戸の言っていた怪異だった。

何よりも、零戸と出会った時に感じた怪異の雰囲気を、その鎧武者は纏っていたのだ。

疑いようもない。間違えようが無い。


「…」


俺は呆然と、その鎧武者の方を見ていた。

何故ならば、鎧武者の方も、俺の方を見ていたからだ。

その手に握り締める、一振りの槍。

それは、まるで枯れ木を抜き取ったかの様に、尖った針が付着していた。


『人面破脳、寄生適合、認識処置、分断処罰』


…その男らしい声と共に、槍が振るわれた。

瞬間的に俺は思考を加速して、空間をスロースペースの状態にする。

槍を構えた、怪異が迫って来た。


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