Play13♨「危険」

 ≪同盟・ぬるいお昼の黒桜≫の面々が乗る船の進行方向上には、大きな島が聳えている。


♨『危険とか言ってた割には敵少ないな』


 舵を任されている羊飼いは、周囲を見渡すように視点をぐるりと動かした。

 海上にはいくつか岩礁が突き出ており、油断すれば船体の損傷を誘うだろう。と言っても密集しているわけでもないため、注意していれば大した危険にはなり得ない。

 これまで二度ほどカモメからの襲撃もあったが、鳥撃ちと羊によってあっさり撃退されている。

 島に着くのももう少し。このままなら損害なく新天地に踏み出せる。

 かと思えたその時、一際大きな影が船を覆った。


✿『あれ?』

☀『なんか来たかな?』


 カメラの向きが強制的に切り替えられ、頭上を仰がされる。

 視線の先には目を潰す日光。それは、よぎった巨体によって遮られた。


 ばさり、ばさり。


 羽が仰ぐ音。それを追いかけ頭を動かす小人達。

 突然の事態に皆は手を止め、船の中央に集まっている。動力を失った船はその場に漂った。

 じっと、上を眺める。

 すると、日光を背負う巨鳥と目が合った。


☘『ぬるぬるがフラグ立てるから来ちゃったじゃん』

♨『いや俺のせいじゃないだろ!?』

✿『ボス戦?』

☀『漕げもしないみたいだね』


 船の中央に集まる小人達に対峙するのは大きなカモメ——≪大カモメ・熟練度10≫だ。羽を広げたそのサイズはタイニーが10人並べそうなほど。

 更には画面端から二羽の≪カモメ・熟練度4≫も現れ、こちらを見下してきた。

 操作権が戻った山羊追いは、船のあちこちを触ってみたが、この戦闘を終えない限り船は出せないようだった。


♨『熟練度10かー。微妙にキツイな』

☘『あたしがメインでアタックする』

☀『攻撃範囲狭い俺とぬるめは相性悪いから、端の二羽に警戒しつつ、サクラちゃんとクロちゃんにデカいの任せる感じで良いんじゃないかな』

✿『オッケー、クロちゃんに攻撃行かないよう守ればいいんだね』


 街守りが正面。後ろに鳥撃ち、左右に羊飼いと山羊追い。

 迷うことなく隊列が整えられたと同時、大カモメが街守り向けてくちばしを突き込んだ。


✿『うわ、防ぎ切れな』

♨『無理して防ごうとすんな。クロも避けれそうなら言ってやれ』

☘『ういー。技使う時は言うねー』


 大カモメの攻撃に街守りは盾を構えるが、質量に押されて体力を減らされる。

 そこを隙と見てか、二羽のカモメが追撃を図った。とっさに動いた羊飼いと山羊追いは、見事にカウンターを決める。空中で与えた痛撃は、一時的に相手の動きを封じた。

 船上に落ちて来たカモメに二人が近づくと、大カモメが割って入ろうとする。


♨『いや、削り切る!』


 山羊追いはバックステップで避難するが、羊飼いはその場に立ち止まり目の前のカモメを切りつけた。

 ダメージに呻いたカモメの体力ゲージが三割近くまで減っていく。それと同時に、羊飼いの体が大カモメの突進で吹き飛ばされた。


☀『無理するねー』

♨『多少は喰らってでも削るのが俺の戦法!』


 あと少しで海に落ちそうだった羊飼いの体力は半分まで縮んでいるも、戦意は衰えていない。

 船上に足着けた大カモメは、周囲に取りつかれないようにとくちばしを辺りに突き立てる。

 しかし、そんなものは関係ないと、距離を取った鳥撃ちが力強く弓を引いた。


☘『強射いきまーす』

✿『おっけー。てか今気づいたけど、船の耐久値ないんだね』

♨『さすがにボス戦は勘弁してくれてんだろ』


 光を伴った矢が、一直線に巨鳥を目指す。的になった大カモメは慌てたように飛び立つが、時遅く下腹部を貫かれた。


「グェエエエッ!?」


 声を発しながら船に墜落し、目を回す。それに小人達が群がろうとすると、二羽のカモメが行く手を阻んだ。


☀『これで倒せるかな?』

♨『オレもたぶん行けるぜ!』


 山羊追いと羊飼いが息ピッタリに己の武器を二連続で振るった。二羽のカモメは成す術もなく、断末魔を上げてその場に倒れ伏す。

 邪魔者が消え、街守りは大カモメへと走り剣を刺した。その後ろから矢も飛んで、大カモメの体力ゲージを勢いよく減少させていく。

 残り三割を切ったところで、意識を取り戻した巨鳥が船上を離脱した。


♨『このままなら削り切れるな』

☘『ぬるぬるーそれフラグー』

♨『しまった!』


 大カモメは息を整えるようにしばらく滞空する。しかし鳥撃ちは、休息を許さず矢を構えた。

 その時、大カモメの逆立った毛の中から何かが飛び出してくる。


☘『なにやつ』


 かきんっ、と矢が空中で弾かれ、それは船の上に立った。


☀『タイニーじゃん』


 そこにいたのは、野性味溢れるタイニーだった。

 肌は浅黒く、衣服は草葉を束ねただけ。髪には羽飾りを刺しており、鳥への仲間意識を発信しているようだった。

 彼は大カモメとプレイヤーたちの間に立つだけで、攻撃は仕掛けてこない。


✿『あれ、倒しちゃいけん奴?』

♨『体力ゲージは出てるから倒せるっぽいけどな』


 野性味溢れるタイニーの頭上には≪獣借り≫という名前と体力ゲージが表示されている。

 突然の割り込みに四人は手を止めていたが、それに構わず大カモメが奇声を発して突進してくる。


♨『攻撃してくるんかいな!?』

☘『やっちゃっていいんかなー?』

☀『やられたらやるっきゃないでしょー』

✿『とりあえずうちは防御に徹する』


 鳥撃ちが大カモメの突進に対抗しようと矢を放つと、それをまたも獣借りが弾き飛ばした。だがその隙をついて、横合いから山羊追いが大カモメに拳を突き入れる。

 巨鳥がよろめくことはなく、近づきすぎた山羊追いは吹き飛ばされた。

 そしてその突進は、直線上の獣借りをも巻き込む。


✿『仲間割れ?』

♨『よく分からんなー』


 街守りは鳥撃ちの前に立ち盾を構え、羊飼いは念のためにと従者に跨って状況を観察している。

 山羊追いが立ち直り、足を止める大カモメに突撃を仕掛けると、獣借りに邪魔をされる。

 しかしその獣借りは、背後からのくちばしで叩きつけられた。

 山羊追いはとっさに横へと避けるも大カモメが追いかけることはなく、近くの獣借りが巨大な足で踏み潰される。


✿『あれ、死んじゃわない? 大丈夫なん?』

☘『邪魔者を助けないといけないイベント……気が乗らない』

♨『とりあえずカモメ倒すぞ!』


 獣借りの体力が徐々に減少していく最中、羊を駆る羊飼いが大カモメの足を切りつけた。続いて山羊追いの拳と街守りの剣が逆立つ毛に突き込まれる。

 ひるんだ大カモメはその場でのけ反り、獣借りが拘束から抜け出す。彼はボロボロになった体を下がらせて戦場を見守る態勢を取った。どうやらこれ以上の邪魔はしないようだ。

 羊飼いの素早いナイフが更に大カモメを切りつけ、体力ゲージが1割を切った。


☘『アイテム落とせやー』


 後方から放たれる光の矢。鳥撃ちの特殊技能≪強者≫が容赦なく大カモメの体を貫く。


「グェエエエエエエエエエエ———ッ!?」


 盛大な断末魔を上げたその巨体は、よろめいて海へと落ちてしまう。

 水しぶきが上がると同時に≪同盟・ぬるいお昼の黒桜≫メンバー全員に大量の経験値が舞い込む。それによって羊飼いの熟練度は二段階上昇し、羊が嬉しそうに鳴き声を上げた。

 ただし喜ぶにはまだ早い。

 不確定要素。その姿を探して視点が強制的に動かされる。

 そうして画面には、野性味あふれるタイニーの姿が映された。





——TIPS——

【船上の戦闘】

・基本的には、防衛の役割についた者が行うが、ボス戦等のイベントが発生した際は船がその場に停まり、全船員での戦闘になる。この際の船には耐久値が一時的に表示されなくなり、敵からの攻撃で沈没することはなくなる。

・船の上で獣を倒した際は、全船員に同じ量のアイテムと経験値が分配される(ボス戦の場合は、ラストアタック者のみ若干経験値増)。

・大きな船になれば大砲などを用意することも出来、空中相手も楽々倒せるようになる。その分、役割等も増えるので、少ない人数では乗れない(コネクションがいればソロプレイでも可能)。

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