Play11☀「漂流」

 ≪同盟・ぬるいお昼の黒桜≫の面々はイカダで海を走っていたが、カモメの襲撃に会い、船長の判断で岩へ突撃。無意味な傷を負って大海原に漂っていた。


♨『クロさんさぁ、なんであんなことしたの?』

☘『ごめんなさい。面白いと思って』

☀『うん分かるよその気持ち』

♨『フォロー入んな! 反省しないだろ!?』


 山羊追い、鳥撃ち、街守り、羊飼い、それに羊。集まる4人と1頭は、どことなく疲弊した表情に見える。

 水中にいる間は画面上部に酸素ゲージが現れており、泳ぐとそのゲージが減少する。動きを止めている間は自動で回復するも、陸での移動よりも効率はかなり悪い。

 更に船体の破壊によって乗組員は相応のダメージを受けており、山羊追いの体力も1割近く削られていた。


✿『それで、こっからどうする?』

☀『近くに島もないし、適当に進んだら迷っちゃいそうだねー』

♨『こんなすぐ壊れるなら素材集めの時間ケチるんじゃなかったな』


 海中から敵はやってこない。呑気に進むことは可能だが、泳ぐ動作はかなり遅く、しかも進むべき方角も分からないと来た。

 ありていに言って遭難である。

 ゲームシステム上、死亡すれば拠点に戻れるが、そのためにはコネクション分の体力全損が必要な上、所持品を全て失う非常にハイリスクな選択である。

 足を止めているのはもったいないと、4人と1頭は確実性を考慮して、来た道を戻ることにした。

 のそのそと平泳ぎをする小人達。酸素ゲージがなくなるとその場でしばらく浮遊し、また平泳ぎを繰り返す。


♨『うおー、これどんくらい時間かかんだよー』

✿『島に戻れる頃にはうち、寝んといけんかも』

☘『サクさんごめんなさい……』

♨『オレ以外だと素直に謝るよなー』

✿『ぬるも自覚してるでしょ。ヒエラルキーの低さ』

♨『してねぇよ! オレだって平等だ!』


 しばらく集団行動をしていると、不意に妙な音が聞こえてきた。

 それは、バシャバシャと激しく、水を掻くよりももっと力強い音。


☀『なんかあっちから来てるね』


 音のする方へ向けば、そこでは大きな水しぶきが上がっていた。

 その水しぶきは徐々にこちらへと近づいてきて、そしてその姿が視界に入る。

 滑らかな鱗をまとった流動的なフォルム。

 マグロである。


♨『お、おい! 敵か!?』

☘『魚とは戦わないんじゃなかったっけ』

✿『……というか、なんか顔変じゃない?』


 そのマグロはタイニーよりも大きかった。

 縦の幅が丁度タイニーと同じぐらい。背中にならば5人は乗れるだろう巨体が、速度を落とすことなくこちらへ向かってくる。

 そしてその顔は、なぜかコミカルだった。

 明らかに一部宙に浮いている大きな白目のなかに、二回り小さな黒目。更には弧を描いた口元からは無邪気に舌が飛び出していた。胴体はリアル指向な分、違和感が否めない。

 そんなコミカルマグロが近づいてくると、山羊追いの頭上には≪掴む≫という文字が表示された。


☘『そうか! あれは救済くんっ! 難破した時の救済措置の、救済くんだっ!』

☀『もしかして、あれに掴めばいい感じ?』

☘『そうそう。タイミングよく掴めれば、近くの陸まで運んでくれるらしい』


 直後、コミカルマグロが4人と1頭の輪の中へと突進する。瞬間、山羊追いの頭上の≪掴む≫の文字が強調され、しなる尻尾をどうにか掴んだ。

 一緒に重なる手は二つ。


✿『あ、無理だった』

☀『一人でも陸に行ければワープできるはずだから、大丈夫じゃない?』

♨『オレの羊も置いていかれているんだが大丈夫か?』

☘『知らん』


 コミカルマグロに掴めたのは山羊追いと鳥撃ちと羊飼いの三人。チラリと背後を見れば、置いていかれた羊は絶望的な表情を浮かべていた。

 それからコミカルマグロは三人分の重量をものともせずに猛スピードで進んでいく。その半身は水面から出ているため、泳ぐというよりも水上を滑るような進み方だ。


♨『お! 島が見えたぞ!』

☘『ちっちゃー』


 しばらくすると進行方向に陸地が現れた。

 だがそこは、岩肌がむき出しの島とも呼べない岩礁。数人分の足場はあるがそれだけの陸地である。

 コミカルマグロは岩礁へ近づくと急旋回を決め、その勢いで捕まる三人を投げ出した。宙を舞った小人達は岩礁に尻餅をつき、その間にコミカルマグロはどこかへと去っていく。

 それからすぐに街守りが転移して来た。羊はいない。


✿『ここ、たぶん目的地じゃないよね?』

☀『さすがにこんな何もないところでストーリーは進まないでしょ』

♨『てかさ、こっからどうやって別の島に行くん?』

☘『木がない。船作れない。オワタ』


 岩礁のスペースは4人が立って少し狭く感じるようなほどだ。無論岩肌のために木々が育つ要素もなく、ここから帰還するための船を作る素材は集められそうにない。


☀『皆の手持ちで船作れそうにない?』

✿『素材になりそうなのほとんどない』

☘『あたしもない。作ったのでなくなった』

♨『オレ、木材は二つあるけど、足りんよな?』

☀『こっちは木材二つに、蔦が三つ。あと木材一つと蔦が二つないといけんなー』

☘『あ。縄があるから、木材が後三つあれば強化イカダの方作れる』

♨『つっても、木も生えてないしなー』


 山羊追いは自分の手持ちのアイテムと船のレシピとを照らし合わせるが必要素材は足りない。仲間達も使えそうな素材を足下に落とすも、それらを加えても船は作れないようだった。

 しばらく4人が立ち往生していると、羊がせっせと泳いでやって来た。


♨『羊、めちゃくちゃ泳げるじゃん』


 羊は主人の姿を見つけるとどことなくホッとした表情を見せて上陸する。その場でブルブルと身を震わせ水分を飛ばしたと思ったら、何を考えたかまた水中に飛び込んだ。


♨『いや何してんだあいつ』


 主人が見守る中、羊が水中から顔を出すと、いつもの死んだ目で覇気のない声を上げる。


「なんかあるでー」


✿『下になんかあるの?』

♨『みたいだな』

☘『潜ってみる』

☀『俺も行こう』


 羊の報告を受けて、真っ先に鳥撃ちが水中へと潜った。続いて山羊追いも飛び込み、その視界が青色に染まる。

 急激に酸素ゲージが減っていく中、どんどん沈んでいき、そしてそれを見つけた。

 岩礁の下に広がる、水没した町を。


☘『町あるよ。しかもデカいね』

☀『これもしかしたら、素材取れるんじゃない?』


 水没した町は明らかに小人には適さないサイズ感だ。丁度、島にあった遺跡の建物と共通した大きさ。

 無論、水の中の町はほとんどが半壊、もしくは全壊している。故にか、町を囲う丸太で組まれた柵も、ちょっとした衝撃を与えればすぐにでも砕け、素材になりそうだった。

 山羊追いは酸素を回復させるため一旦水中に顔を出し、もう一度潜水する。

 その時、彼の顔を横切って、鳥撃ちの矢が放たれ、丸太を粉砕した。

 丸太の破片は水中に散乱し、採取エフェクトを放ち始める。


☀『お、取れる』

♨『マジか! 羊が役に立った!』


 木材をいくつか拾い集めた山羊追いが岩礁へ上がると、羊飼いが羊の腹を撫でているところだった。もうほとんど犬である。


✿『じゃあこれで、船作れるんだねー』

☘『何とかなった』

♨『てか、デカい町とかちょいちょい出てくるけど、ストーリーで言ってた大いなるものって巨人なのか?』

☀『昔に滅びたとかありそうだよねー』


 それから≪強化イカダ≫を作った一行は、舟をこぎ島へと戻ったのだった。





——TIPS——

【救済くん】

・海で数分漂っているとどこからともなくやってきて、近くの陸まで運んでくれる魚類。現れる種類はランダムで変わり、どれもがコミカルな顔を張り付けている。

・≪イワシモデル≫…定員8名。小さなイワシが群れとなって運んでくれる。その上に立って乗ることが可能だが、速度は遅く、鳥に狙われやすい。耐久値も限りなく低い。

・≪アジモデル≫…定員1名。稀に鳥に食べられる。速度は普通。

・≪マグロモデル≫…定員5名。速度が速いため鳥に襲われることはほとんどない。

・≪サメモデル≫…定員10名。速度が速く鳥に狙われることはない。ただし乗るのに失敗すると食べられる。

・≪クジラモデル≫…定員30名。超巨大で乗るのも容易。速度も安定しており鳥から襲われることも少ない。出現確率がかなり低い。

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