Play9♨「序章」

✿『ごめんおくれたー』

♨『おつー。残業か?』

✿『セクハラ受けてた』

☀『ダメじゃんかぬるめー』

♨『そのさぁ、とりあえずオレにぶん投げるやり口良くないぞ?』

☘『皆街で集まってるからサクさんもログインして来て』

✿『はいはーい』


 羊飼いの画面に≪サクラさんがログインしました。≫という通知が来る。それからしばらくして、街の集会所に見慣れた街守りが姿を見せた。


♨『じゃあ早速ストーリー進めるかー』

☘『あのフードに話しかけるのだ』


 鳥撃ちが指さした先には、赤色の≪!≫を頭上に浮かべるタイニーがいた。

 そのタイニーは薄汚れたフードで表情を隠していて、周囲とは異なる雰囲気を発している。


☀『明らかに怪しげだねー』

✿『だね』

♨『よしじゃあ声かけるぞ』


 羊飼いが率先してその怪しげな人物へと声をかける。

 すると画面が切り替わり、フードを被ったタイニーの顔が大きく映し出された。


 ——伝え語り・ゼス


♨『これ、皆画面切り替わった感じか?』

✿『変わってる』

♨『誰かが戦闘中とかだとどうなるんだろうな。強制転移されるのか?』

☀『ヘイト貰っている内はイベント進められないってチュートリアルでも言ってたよ』

☘『選択肢は多数決で、スキップは全員賛成で出来る』

♨『ほーん』


 カメラワークが落ち着くと、ゼスという名のタイニーはまるで大勢に語り掛けるように口を開いた。


「≪おおいなるもの≫という存在をご存知ですか?」


♨『お、PVのセリフだ』


 ゼスの声音はしゃがれていて、表情が見えないために年齢や性別は不確かだ。彼は4人の聞き手へと順に視線を送りながら、伝承を語っていく。


「かつて昔、≪おおいなるもの≫という存在によって、あらゆる生物が導かれておりました」


 画面には壁画のようなものが映し出される。

 そこには獣や人が雑多に描かれており、彼らの視線の先には大きな光があった。

 その光が道案内をするように、生物たちは後ろに連なり世界を渡り歩いている。


「ですが、≪おおいなるもの≫はある時からいなくなり、我々は迷子になってしまいます」


 光が消えると、導かれていた者達は途端に目標を見失い、互いを傷つけ始めてしまう。


「争い虐げ、挙句は滅びゆく。次第に我々は、住み分けるようになりました。ただしそれは話し合った結果ではありません。そうするしか生き残る方法がなかったためです」


 生物たちによる秩序のない戦は、世界中が水に満たされてようやく止まった。


「散り散りになった我々は、水に閉ざされた島々で、どこを目指すこともなく暮らすようになりました」


 世界に残されたのは、山の一部が突出した小さな島々。

 水の中で暮らせない生物たちは、それぞれが自分たちの暮らしやすい環境を作り、必要のない争いは次第になくなっていった。


「それは平穏です。しかし停滞でもありました。我々は本当にこのままでよいのでしょうか。誰もが探求心を胸に潜ませているはずなのです」


 生物たちは、毎日島の外を眺めていた。

 きっと過去に導いてくれた光があれば、大海原に出る術を与えてくれただろう。

 しかし戦があり、水に閉ざされ、時が流れて、誰もがその大きな存在を忘れてしまった。

 そうして、島の外を出ようとする者はついにはいなくなった。


「願わくは、また光が差さんことを」


 その伝え語りの一言を最後に、画面は元に戻る。どうやらイベントはそれだけらしく、耳を傾けていたタイニーたちは自由を取り戻している。

 羊飼いが不思議そうにもう一度伝え語りへ話しかけるが、彼は「どうか今一度、我々をお導き下さい……」と祈るだけだった。


♨『結局どういう意味だ?』

☀『あんまり何しろとか言われないパターンなのかな?』

☘『とりあえず、島の外に出るのが目的じゃない?』

✿『あっちにいる子の頭にビックリマーク出てるけど、次あの子に話しかけるってこと?』

☀『ぽいね』


 街守りが示した先にいたのは、≪話拾い≫のタイニーだ。

 ハンチング帽を被った軽装備の小人。彼女は島中の情報を集めていて、チュートリアル時には散々お世話になった人物である。

 街守りが話拾いへと話しかけると、羊飼いの画面も急変する。


 ——話拾い・クル

「おやおや! ボクに何か聞きたいことがあるのかな!?」


 元気な口調に合わせて選択肢が表示された。


 ——世間話/島の外に出る方法/伝え語りについて/何でもない


 ≪伝え語りについて≫を選択する。しかしそれらの文字は暗くなって、≪世間話≫だけが明るく残されていた。どうやら多数決に負けたらしい。


「最近の調子かい? ボクは元気だよ!」


♨『おい誰だ遅延プレイした奴っ』

☘『急に質問するなんて非常識』

☀『さてはぬるめ、陰キャだね?』

♨『NPCなら多少の無礼も見逃してくれるわ! あと陰キャって言葉、オレは嫌いだねっ!』


 世間話については一文で終わりらしく、話拾いを目の前にして自由を取り戻す。すかさず話拾いに話しかければ、先ほどと同じ選択肢が表示される。

 即座に≪伝え語りについて≫を選択すると、今度は全ての文字が暗転し、話拾いが慌てた様子を見せる。


「ちょ、ちょっと同時に話しかけられると分かんないよっ」


☘『選択分かれた』

☀『俺、伝え語りについて選んだけど、もしかして島の外選んだ?』

✿『うちはそう』

♨『オレ伝え語り。先に身元調べといた方が良くね?』

✿『島の外に行くのが目的なんじゃないの?』

☀『集まれるうちに進めときたいし、ちゃっちゃと進めよっか』

☘『りょ』

♨『まああとでも聞けるかもしれんかー』


 再度、四つの選択肢が現れる。今度は≪島の外に出る方法≫を選んだ。

 すると、快活な話拾いの表情が僅かに歪む。


「島の外に出る方法? そりゃあ船しかないけど、外に行ったって海しかないよ?」


♨『あん? 他の島には行けないのか?』


「海の上だとどうしても迷っちゃうし、どこかに辿り着く前に夜になっちゃうから。それでも海に出たいって言うなら、港の≪船乗り≫の誰かにお願いすればいいよ。船の作り方なら教えてもらえると思うよ」


 そう話拾いが告げると、画面が元に戻り、彼女の頭上に浮かんでいた≪!≫はなくなっていた。


♨『とりあえず港だな。行こうぜ行こうぜ』

☀『作り方教えてもらうってことは、材料いりそうだね』

☘『先に木材取ってこようか?』

✿『今持ってるのでもいけるかもだし、一応みんなで行くでいいんじゃない?』

♨『どっちでもいいけどオレは港行くぜー』

☀『まあみんなで行こっか』

☘『りょ』


 ≪同盟・ぬるいお昼の黒桜≫の面々は、港を目指し、連れ立って街を出た。





——TIPS——

【イベント進行】

・ソロモードと同盟行動中でのイベントの達成度は別で、同盟毎にセーブデータがある。全員が参加していなくてもストーリーは進められてしまうので話し合い要。

・同盟行動中に、誰かがイベント発生フラグを立てると、強制的にそのイベント発生地点に転移される。ただし獣からのヘイトや、タイニーに話しかけるなどをしている場合は、発生フラグを立てたプレイヤーに≪イベントを発生させられないプレイヤーがいます≫といったメッセージが出て、イベントを発生させられない。

・イベント中の会話は多数決によって決まる。同票だとやりなおし。時間制限がある。

・会話は全てオート表示で、スキップは全員がスキップボタンを押した場合のみ。

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