Play8☘「ソロプレイ」

☘『ウカレタ蝶になってぇ一途な風に乗ってー、どこまでもキミに会いに行こう♪』


 鳥撃ちは森の中を駆けていた。

 点々と立ち並ぶ木々を避けながら、時折後ろを振り向いて弓を弾く。

 尾を引く矢が目指すのは、茶褐色の毛並みだ。


「ヴォオオッ!?」


 矢を受けた熊はその場でよろめくもすぐに体勢を立て直し、獲物を追いかける。続いて頭部に矢が三本突き立つが、意に介さない。

 鳥撃ちは油断せず、距離を保ったままに矢を番えた。


☘『曖昧な言葉ってぇ以外に便利だってー、叫んでる、ヒットソング聴きながらー♪』


 集中力を消費して≪二連≫を発動。

 トト、と光を伴った矢が熊の腹部に深く潜り込む。

 熊の体力が三割を切った。その瞬間、予備動作もなく熊が跳躍し、一気に距離を縮めた。


 ズシィンッ!


 鳥撃ちの小さな体が潰されて、体力ゲージが減る。ただし堅強な装備のおかげで致命的なものではない。

 だが、強力な攻撃を受けた反動で、小人の体はフラフラとわずかの時間、操作を受け付けなかった。その隙を逃さず、熊が大振りに両腕を持ち上げる。

 直前で鳥撃ちの操作権が戻る。だが、避けるには間に合わない。

 故に、矢を放つ。


 トトッ。


 ≪二連≫。通常よりも威力の高いそれが、熊の攻撃よりも先に突き刺さり、その巨体をのけぞらせた。


☘『何がWOWWOW~この街に響くのだろうぉお、だけどWOWWOW~期待してても仕方ないぃいー♪』


 熊の体力は残り一割。

 安全を取ることよりも早い決着を選び、鳥撃ちはその場で特殊技能≪強射≫を発動しようと、大きく弓を引いた。

 だがそこへと邪魔が入る。


「ピギィ!」


 小さな鳥撃ちの体が跳ね飛ばされた。

 突進してきたのは猪。

 まるで、手負いの熊を庇うようにその獣は現れたのだ。

 体力はさほど減らなかったものの、隙を作られ好機を失う。

 立ち上がった鳥撃ちの目の前には、熊と猪。更には木の上で様子を見る小さな鳥まで敵意を向けてきていた。

 だが鳥撃ちは、多勢に怯える心など持っていない。


☘『無限大な夢のあとのぉー、やるせない世の中じゃー、そうさ常識ー外れも悪くはないかな♪』


 猪が蹴りだす。直進。

 ステップだけで躱し、弓を構える。向けるのは猪ではなく熊だ。連携を取って攻撃を仕掛けてくる巨体だが、僅かに鳥撃ちの方が早い。

 これで仕留められる。そう確信するも、小鳥に横合いからつつかれモーションが中断された。

 すると立て続けに熊の爪が迫る。さすがに避けきれず、しかしただ受けるだけでは面白くないと、矢じりによる近接攻撃を一度与えてから身を裂かれる。

 体力はまだ余裕だ。

 ただし三方向からの攻撃は止まらない。態勢を立て直している隙に背後から猪が突っ込んで来る。

 その突撃を僅かに横へ動いて躱し、それから画面端へ向かった猪を追いかける。すると熊と小鳥も鳥撃ちに追随した。

 猪が立ち止まり体の向きを変えているところに矢を突き立て、ステップ。直後、鳥撃ちを狙っていた熊の爪が獲物を探す猪の顔面をひっかいた。


「ピギィッ!?」


☘『Stayしそうなイメージを染めたぁ、ぎこちない翼でも♪』


 猪がその場に転び、体力ゲージが半分を切る。

 熊はすぐに本来の獲物を再度求めて顔を動かすが、その時にはすでに、距離を取った鳥撃ちが矢を構えていた。

 その矢じりは頭上へ。


 ヒュッ、トトトッ。


 ≪矢雨≫。空中へと射られた三本の矢が、猪と熊をまとめて射止める。


「ヴォッ!?」

「ピッ!」


 二体の体力ゲージが減少し、共にあと僅か。些細な一撃でもその命は散るだろう。

 そこへ、鳥撃ちは≪強射≫の構えを取った。


☘『きっと飛べるさー、おーんまーいらー、あっ』


 だが直後、割って入った小鳥が何を思ったか熊と猪をつついて殺害し、そしてその小さな身体だけが強力な矢に貫通された。


 ——≪経験値+5≫


☘『経験値、奪われた……っ』


 鳥撃ちは数秒、獲物を横取りされたことに呆然としていたが、すぐに切り替え、獣たちが落とした素材を拾い集める。

 ただそれは、想定よりもずっと少ないものだ。

 どことなく肩を落としているようにも見える鳥撃ちは、不意に動きを止める。


♨『うぃーす』

☘『こんばんは、ぬるぬる』

♨『ばんはー。クロが早く入ってるってことは、絶対抜け駆けでレベル上げしてるよな?』

☘『小鳥に邪魔されなければ15に上がるはずだった……』

♨『小鳥? てかだとしたら今14? オレの二倍以上あんじゃんか』

☘『頑張ってプレイするの我慢した』

♨『えー、確か前回の時、8か9でしたよね? 我慢出来てるそれ?』

☘『ストーリー進めてない。偉い』

♨『オレだってやりたかったけど、皆で進めるだろうからと思って、開きすらしなかったぞ!』

☘『偉いね。足引っ張らないでね』

♨『あ、足は、引っ張るかもぉ』


 鳥撃ちは周囲を見渡し、取りこぼした素材がないことを確かめて森を抜ける。


☀『二人とも、どもー』

☘『こんばんは、おひるん』

♨『うぃー。あ、聞いてくれよ。クロさん一人でレベ上げしてんだぜ?』

☀『知ってるよー。俺もちょっとだけやったけどねー』

♨『お前もかよ! お前らそう言うとこあるよな! で、クロさんどこがレべ上げスポットっすか!?』


 森を後にした鳥撃ちは、同盟メンバーの集う街を目指して歩き出したのだった。





——TIPS——

【獣】

・一般的な動物。これらを狩ってタイニーは生活している。場所によっては体が大きくなり、それに比例して熟練度も上がる。

・徒党を組んで小人達に反抗することもあるが、仲間割れをすることも多い。

・一部の獣は飼育することが出来るらしい。羊飼いの羊も元は野生の獣。

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