Play7☀「探し物」

✿『うちあと30分くらいで寝たい』

♨『オレもそろそろ寝んと明日キツいわ』

☀『じゃあここら辺で終わる?』

☘『最後に港だけ行こ』

✿『そうしよっか』


          ♨✿☀☘


 ——港


 そこは活気だけで言えば街以上だ。

 海岸沿いに作られた桟橋や防波堤を更に拡張していく労働者。船の積み荷の運び出しを指示する船頭に、小型船から糸を垂らす釣り人。いくつも並ぶ屋台には舌包みをうつ小人が大勢いる。

 仕事と娯楽が居合わさって、他の場所とはまた違った賑やかさに包まれていた。

 そんな光景に興奮したように、鳥撃ち、羊飼い、街守りが駆け出して、山羊追いはそれを後ろか眺めている。


♨『おぉおお! 船だ! そういやストーリー進めたら島の外に出られるんだったよな!?』

✿『この船に乗っていくんかな?』

☘『基本的には自分で作った船で行くらしい』

☀『あ、船も作れるんだね』


 うろちょろ辺りを散策する同盟メンバーに倣って山羊追いも歩を進める。

 三人が大きな漁船に駆け寄っている中、山羊追いは一人、屋台の並ぶ一角へ。

 店ごとに決まったテーブルはなく、通りに設置される席で各々に食事を楽しんでいる。中には地べたに座って談笑するタイニーも見られた。

 やはりここでも金銭のやり取りはなく、けれどもほとんどの客がお礼を渡して料理を受け取っている。協力し合う性格からか、タイニー間での犯罪はないようだ。

 誰もがにこやかな空気の中で、山羊追いは一人だけ、困った表情をしている少女を見つけた。

 足を止めてキョロキョロ。通りを横断し、また足を止めてキョロキョロ。

 何やら探し物をしている様子のそのタイニーの頭上には、緑色の≪!≫マークが表示されている。

 山羊追いが彼女に話しかけると、≪!≫マークがピョンと跳ねた。


「すみません。この辺りで釣竿を見ませんでしたか? ちょっと目を離したらなくなっていて」

 ——サブクエスト「釣竿を探して」を引き受けますか? はい/いいえ


 タイニーの言葉に続いてメッセージが現れ、≪はい≫を選択すれば、山羊追いの頭上に≪サブクエスト「釣竿を探して」発生≫という文がポップアップする。

 依頼を引き受けてもらい、少女は顔をほころばせた。


「探してくれるんですか!? ありがとうございます! 探しているのは赤い釣り竿です!」


♨『お? サブクエスト?』

☀『あーごめん、俺が適当に話しかけたら発生しちゃったみたい』

✿『そんなに時間かからないでしょ。それ片付けたら今日終わりにしよ』


 会話が終わると、≪!≫マークがオレンジ色に変わり、少女はまた話しかける前のように探し物を始める。

 山羊追いはメニュー画面を開いて、≪手帳≫の欄から≪進行中クエスト≫を選び、≪釣竿を探して≫の内容を閲覧する。そこには、会話以上のヒントが書かれていた。


≪港でタイニーが「赤い釣竿」を失くしてしまった。もしかしたら誰かが勘違いして使ってしまっているかもしれない。釣り人に積極的に話しかけてみよう≫


☀『赤い釣り竿持って釣りしてるタイニーが当たりっぽい』

☘『いた』

✿『はやー』


 山羊追いがメニュー画面を閉じると、桟橋に腰かける釣り人に話しかける鳥撃ちの姿が目に入った。

 その釣り人が持つのは赤い釣り竿。鳥撃ちに話しかけられると、頭を下げながらその赤い釣り竿を渡した。

 山羊追いが鳥撃ちの元へ向かうと、街守り、羊飼いも集まってくる。


☘『ビンゴ。普通に返してくれた』

☀『じゃあ依頼主に言えばいいのかな? こっちだよ』


 鳥撃ちは、手に入れた赤い釣り竿をわざわざ装備して見せびらかす。山羊追いは先導して、釣竿の持ち主の元まで案内した。

 未だ辺りを探している少女に鳥撃ちが話しかけると、少女の困り顔が笑顔に変わる。

 しかし、少女の一言に鳥撃ちが首を横に振ったことで、その笑顔は霧散した。

 鳥撃ちは振り向き、手に持つ赤い釣り竿を掲げた。


☘『うっへっへー、釣竿ゲットだー』

♨『こら! ちゃんと返してあげなさいっ!』

☘『でもぬるぬるお母さん、これで一杯お魚を食べさせて上げられるよ』

♨『あ、あんたって子は……! いや乗せられねぇよ!?』

✿『釣り出来るんだったら欲しいけどねー』

☀『まあ後でも手に入るでしょ。クロちゃん、普通に返してあげなー』

☘『あーい』


 鳥撃ちはもう一度少女へと話しかけ、今度こそ釣竿を返す。

 少女は先ほどの悪質な嫌がらせも忘れ、眩しい程の笑みを浮かべた。それからお礼として一回り小さな釣竿を渡してくれる。

 そうして会話が終わると、頭上の≪!≫マークが一回転して消えた。


 ——サブクエスト「釣竿を探して」を達成。

 ——≪初心者の釣竿≫を手に入れました。


 画面に≪経験値+15≫が表示され、山羊追いの熟練度が7へと上がった。同盟メンバーも、鳥撃ち以外の二人が熟練度を上昇させたようだった。


☀『釣竿もらえた上で経験値ももらえるんなら、こっちの方が美味いね』

☘『でもこれ劣化品』

♨『あそこで渡してなかったら得してんのクロだけだったかんな!?』

✿『同盟サービス充実してるよねー』


 それから一行は、連れ立って港を見て回り、キリの良いところでログアウトしたのだった。





——TIPS——

【サブクエスト】

 タイニーたちから受けられるクエスト。やってもやらなくても、ストーリーの進行には関係しない。達成すると経験値と、依頼主からお礼の品を貰える。

 緑色の≪!≫マークが目印。依頼を引き受けるとオレンジ色に変わる。メニューの≪手帳≫画面から進行状況や、これまでの達成した内容などを確認できる。

 多くのタイニーを助ければ、それに見合った肩書きを得ることもあるかもしれない。

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