1-3

「宮西くん! 宮西くん! 大丈夫!?」


 身体を震わせてわなわなと、砂埃で舞う目の前の光景を見つめるおかっぱ頭の少年、桐原途陽。未だに能力者同士の闘いが続けられている中、それでも桐原は親友の安否を確認するため、その場を離れるようなことはなかった。


 桐原の脳内にはしっかりと焼き付いている。――茶髪の髪を風に揺らしながら、最後に何かを呟いたことが。具体的に何を言ったのかは分からなかったが……。

 その時、砂埃の中の影が動いた。そしてゆっくりとその影は大きさを増していく。


「おっ、あの人たちはどこかに行ったようですね。よかった、これで一安心」


 いたる箇所が砂埃などで汚れているものの、何事もなかったかのように柔和に笑いながら自分の元に歩いてきた宮西京を見て、おかっぱ頭の少年は大きく息をついた。


「どうやって助かったの!? 僕たちまだ魔法は使えないよね!? まさか抜け駆け!?」

「魔法自体は小学生でも、桐原くんでも簡単に組めるレベルのものですね。ほらっ、ナビに載ってた『防御プロテクト』って魔法あるじゃないですか。あれを発現して身を護っただけですよ?」


 しかし、彼は何かをはぐらかそうとするように視線を逸らしていた。


「でもっ……」


 桐原は知っている。――ビルの残骸が少年に直撃する直前に、ポケットから取り出した何かにあることを素早く書き込んでいた光景を。

 誤魔化しきれないと思ったのか、だがそれでも宮西はゆっくりと首を横に振った。


「ごめんなさい、ちょっと言えないです……。あっ、いずれは説明すると思いますよ! だけど今は……」


 勘弁して、そう言いたげな顔だった。疑問を払しょくすることはできなかったが、


「大丈夫だよ、宮西くんっ。人にはそれぞれ事情があるもんね。言いたくなったらでいいよ? 僕、それまで待つからさ!」


 宮西は小さくコクリと頷いて、


「……ありがとうございます。なら、桐原くんが〈R4推進委員会〉に入るくらいの実力者になったら教えちゃいましょうか」

「うん、僕頑張るよ! 僕もあんなふうにカッコよく魔法を使えるように頑張るよ!! あ、でも、魔法はもう決めてたんだ! それは忍者みたいな暗殺者!」

「それじゃあ僕も頑張るとしますか。こんな防御魔法で終わるのではなく、最強の魔法使いに」


 二人はお互いの顔を見合わせ笑った。そして互いの右手を握り、その決意を露わにした。


 しかし。


 翌日以降、桐原途陽はR4にログインすることはなかった。理由を聞けば、突如出会った女に骨の髄まで燃やされたからだと、彼は声を震わせながら語った。そして宮西はR4で一つの噂話を聞く。それはおかっぱ頭の、見るからに初心者の少年が激しく喚きながら長時間紅蓮の炎に、それも多人数の前で無様に燃やされたとの噂を。


 ――――『紅に染まる無限世界アンリミテッドクリムゾン』という二つ名も交えて。

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