第2話 うわのそら

 電子ピアノの晩餐……ストリートミートパイ……

 「……い、お……」

 パナマ式スクリューラリアット……

 「しっかり……おい……やま……」

 コンフュージョン田中……

 「田中がどうしたって?おい、山木田……」

 コンフュージョン田中?

 「山木田!!」

 「コンフュージョン田中!!」

 「うわっ、びっくりしたァ!!」

……ってあれ?物理の授業は?

 「んなもん、とっくに終わってるよ。」

 マジか。

 「どうしたんだよ、山木田?授業の初っ端からケツまで上の空って、お前、相当だぞ。」

 いや、なんでもないけど……

 「本当か?なら、いいんだけどよ……」

 もちろん嘘だ。俺がずっと上の空なのは、彼女のことを考えてるからである。と、ここまで考えて一つ思い出したのは、肝心の彼女の名前を聞いていなかったことだ。しかし、あの状況で名前を聞けるのは、ナンパ師ぐらいのものだろう。初対面で名前を聞かれたら、誰だってナンパだと思う。俺だってそう思う。さて、今日は定休日ではなかった筈だ。念の為、後で那津さんに確認しておこう。

 「ところでよォ~、お前、バイトすんの?」

 「するわけ無いだろ。加藤、お前俺がどんな人間か忘れたのか?この世のありとあらゆる事象がめんどくさい山木田夜早さんだぞ?」

 事情が分からないであろう方々に申し添えておくと、この学校は部活動に入らなかった場合、バイトができるのだ。進学校の癖に。おい、そこ。ご都合主義って言うな。

 「おまっ……マジでどーかしたほうがいいぜ。その性格。」

 「んなこと言われたって、めんどくさいのはめんどくさいだろ。」

 「でも、その分出会いがあるでしょ。」

 うおっ、清水。

 「だからさ、うちで働いてみなよ。時給、交渉して上げとくからさ。」

 そんなこと言われたって働く気は起きないし、第一、提示された賃金で働いている方々に申し訳ない。というか、お前ん家のカフェに勧誘したかっただけだろ。

 「そうだよ。」

 即答かよ。

 「おっと、お昼に誘われてるんだった。それじゃ、あとでね〜。」

 そう言うと、清水は小走りで教室から去っていった。

 「おう!……清水って、ほんといいやつだよな。一生大切にしないと。」

 分かってるから、こっち向いて言うな。

 「何度もいうが……って、あいつ、弁当忘れてってるじゃん……」

 しゃあねえ。言ってやるか。

 「おーい!!田中英明が結婚したらしいぞー!!」

 「いやそれじゃねぇだろ!!」

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