2-12

 野球はオーラでするようなモンじゃないだろ、というツッコミは置いといて、


「まぁ、上級生がショボかったってのもある。他のポジションも上級生を差し置いて同級生がレギュラー取ってたし。で、それでよ、当然上級生ヤツらは納得しないんだよ。どうして俺らを差し置いて下級生がレギュラーなんだ? ってな。実力考えれば当然なのに、しょうもねぇプライドで現実が見えないんだよ」

「それで、対立でもしたの?」


「そんな声を聞いたのか、ある時監督が上級生を試合に出した。俺を交代させてな」

「投球が相手打線に捉えられ始めたとか、ケガしたとかじゃなくて?」


「無失点だったし、普通に元気だったよ。んで案の定、ソイツが打たれて逆転負け。あん時はマジで監督の頭を疑った、素直に俺を続投させとけば逆転されはしなかったってな」

「その先輩に気を遣っただけじゃないの? 思い出登板とか?」


「思い出登板じゃない。なぜならって、その起用がそれっきりだけじゃなかったからだ。たしか三試合続けて同じことをした。で、同じ負けを繰り返した。……監督と寝てるんじゃね、って思うくらいにな」

「……寝るって。やっぱり野球部ってそういう……」


「ちげーよ! 監督は女だったんだよっ。変な妄想はやめろ……。話は戻すけど、何回炎上させれば済むんだよって、部員も白け始めたんだよ。――――でもな、俺たちは後々になって気づいた、監督の狙いってヤツを」

「……狙い?」

「――――納得させてんだよ、コイツはダメだってことを。俺たちにまざまざと駄目だって理由を結果で示させた」


 話を聞いて若干引き気味の黒川。


「後輩の前で醜態を晒させるって……。ヒドイ……」


 スポーツ……、そもそもチーム内での争いというものを経験したことがないであろう、黒川ならそう思うのかもしれない。


「これが普通なんだよ。というか、本人にも納得させてるんだよな。それって結構幸せなことだと俺は思う。自分が駄目だって分かるチャンスをくれるってことはな」

「その話を聞くと、今の伏見さんはまさに…………」


 そう、その通りだ。


「せっかくこんなにもギャラリーが集まってるんだし、見てもらわないとなぁ。星ヶ丘がレギュラーで、伏見がレギュラーじゃない理由ってヤツを。周りにも、そんでもって自分にも納得させてやるんだよ」


 おっと、どうやら試合再開のようだ。少しは頭を冷やしただろうか、伏見咲夕は?

 お互いタイムの権利を使い切り、残り2分を切った最後の戦い。


「それにな、黒川」


 一つ、伝え残した言葉があった。


「バスケはチームで勝つことが大事なんだろ? だったら一対一でボロボロになろうが、最後にチームで勝ちゃあいいんだよ」


 前後の文脈が繋がっていないな、と言った後で気づいたが、


「チームプレーを経験してきた、ってのは本当みたい」


 言いたいことは黒川に伝わってくれたようだ。


 そうして俺たちは所定の位置に付き――――試合再開。


 どうやら伏見咲夕は、少しは頭を冷やしたようで、星ヶ丘との直接対決は避け味方との連携を増やしてきた。しかし司令塔としての役割、および単純な技能においては現レギュラー、星ヶ丘が一枚上手であったようだ。


 ――――試合終了のブザーが鳴る。


「……ハァ、……ハァ……ありがとう、善ちゃん、黒川さん」


 スコアは『34―30』、――――俺たち星ヶ丘チームの勝利で試合は終わった。


 それにしても…………ああ、疲れた。単なる運動では得られない気疲れってヤツを久しぶりに味わった気がする。

 額には爽やかな汗を浮かべ、笑顔で握手を求めてきた星ヶ丘。女子の手に触れるのは随分久しぶりだと思いつつ、俺は彼女の握手に応じる。不思議と緊張感はなかった。


「やるじゃない、神宮寺くんも。半分認めたくないけど、半分認めてあげる」

「ナニ上から目線なんだか……」


 とは言いつつも、意外にもハイタッチを求めてきた黒川。これまた久しぶりのハイタッチという行為で俺は黒川に返してやった。

 と、ここまで試合を見守っていた女子バスケ部の……レギュラー格か? 部長も含め四人のメンバーが星ヶ丘の下までやって来て、


「や~っるじゃん、ほっしー! 流石はウチらの司令塔! 流石はレギュラー!」


 その中の一人が星ヶ丘の背中を軽く叩きつつ労いの言葉を掛けた。


 気の弱そうな部長も、


「堂々とレギュラーとして胸を張ってね、星ヶ丘さん。これからも司令塔としての役割、期待してます」


 じゃあ、今度から星ヶ丘への嫌がらせは見なかった振りせずにしっかり止めてやれよ。

 その後、残りの部員が次々と星ヶ丘の下へ集まってくる。


「やれやれ、私たちの出番はこれでおしまいみたい。水分補給してくるわ」


 黒川は星ヶ丘を見届けると、クールにそう言い放って出入口から出て行った。


 ……さて、勝者が生まれる影には当然敗者が生まれるワケだ。

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