第6話 オネエとヘビードッグ(開幕)
試合当日、赤間は鬼怒川と共にフグオカ県に来ていた。矢田から、試合会場が変更になったと連絡があったのは今朝のこと。2人は会場となるフグオカ港に来ていた。
「私フグオカ県って初めてなのよね。何が有名なのかしら」
「いやいやベニさん、遊びにきたわけじゃないっすよ」
「そうだけど、やっぱり楽しみがあってもいいじゃない? 今日の相手はフグオカの子なんだし、その子に聞くのもありね」
「嘘でしょ!? 煽ってるようにしか聞こえませんって」
「まあ、全て終わらせてから楽しみましょう」
「お前がスカーレットだな」
背後から男の声がして振り向くと、そこには鉄パイプを持った集団がいた。
「お前らに恨みは無いが、依頼なんでな。悪いが、偽のメールを送らせてもらった。やれ、お前ら」
と、リーダーらしき男の合図と同時に、男達が一斉に赤間と鬼怒川に襲い掛かった。だがそこはプリフェクチャーバトルの代表2人である。襲い掛かる男達を一撃で沈めていく。
「何かしら。新しい歓迎方法?」
「そんなわけないでしょ。どうせヘビードッグ側の差金ですよ。スカーレットって呼んでたし」
男達の攻撃をかわし、倒しながら話す2人。一方的に終わるかと思った頃だった。
パァンッ!!
港には一発の銃声が響いた。弾丸は赤間の左
「ベニさん!!」
「大丈夫。掠っただけよ」
「お前ら、行くぞ」
男達は、赤間の脚に銃が当たったことを確認すると、すぐさま逃げていった。
「ベニさん。脚、このまま試合なんて……」
「問題ないわ。止血をして、すぐ会場に向かいましょう」
止血を終わらせ、一連の出来事を矢田に報告する。矢田から本来の試合会場はポイポイドームであると告げられ、2人は会場に向かった。
「お疲れ様です。ご無事で何よりです」
「ありがとう矢田ちゃん。今日も知事はもういらっしゃるのかしら」
「はい。『存分にやりなさい』とのことでした。それと、鬼怒川様はもうプレイヤーではございませんので、ご入場の際はこちらの関係者バッチをお付けください」
「おう。ありがとさん」
「ではまいりましょう」
会場に入ると、二重丸フグオカ県知事と平野つくしの姿があった。
「ようこそ、スカーレット。今日は熱い試合を楽しみしているよ」
二重丸が握手を求める。スカーレットはそれに応じ握り返す。
「こちらこそ、お出迎えいただけるなんて光栄です」
両者が握手を交わしたその瞬間。二重丸は右膝をスカーレットの左腿に当てた。
「……っ!」
「おっと、すまないね。躓いてしまったよ」
今のスカーレットには痛い一発だ。
誰にも見えない角度で行われたそれに、気づく者はいなかった。ただ1人、つくしを除いては。
「おや、どうかしたかね」
「……いえ、何も。私も準備があるので、失礼します」
スカーレットと一行を見送り、表情を一変させた二重丸はつくしに言い放つ。
「いいか、ここまでお膳立てしてやっているんだ。絶対に負けることは許さん。負けた時は、妹の命はないと思え」
「……はい」
危険物検査を受け、スカーレットは控室で開始の時間を待つ。先程の箇所は包帯から血が滲んでいた。スカーレットは観客に心配されないようそれを隠してドレスに着替え、試合前の時間を過ごしていた。
「そういえば矢田ちゃん、このドレスどこのブランドかしら。すごく動きやすくていいわ」
「それは良かったです。そちらはバトルのために特注で作らせた物ですので非売品になります」
「あら、そうなの。すごくいい物だったから一着買おうかと思ったんだけど残念ね。まあ、バトルの楽しみにするわ」
係が、試合開始を告げるべく控え室に来た。
「じゃあ、行ってくるわね。太一、後片付けよろしくね」
「……分かったよ。ベニさんも気をつけて」
『さあ今夜も始まりました! プリフェクチャーバトル!! 実況は私、白瀬カタルと』
『押江のべるの2人でお送りします。』
『さて、押江さん。本日の注目選手といえばやはりスカーレット選手でしょうか』
『そうですね。初出場ながら、あのキッド選手に勝ち星を上げていますからね。今日も期待できるかもしれません』
『ですが今日の相手も強敵です。ヘビードッグ選手はこの業界屈指の強さを誇るプレイヤーですからね。』
実況はスカーレットの勝利を期待するかのような調子で会話を進めていく。観客も、前回の試合の印象が強かったのか、奇妙なオネエプレイヤーの活躍に期待を寄せていた。
ただ1人、フグオカ県知事の二重丸だけは、スカーレットを称賛する声に苛立ちを覚えていたのだが。
『それでは両選手の入場です。まずは新進気鋭のニューカマー、スカァァァアアアレットォォォオオオ!!』
またしても、スカーレットは真紅のドレスに彫刻のような筋肉を浮かばせて登場する。観客は前回のどよめきとは反対に、その姿が見えた途端盛り上がりを見せた。
「スカーレット! 今日も期待してるぞー!!」
スカーレットは会場に手を振りながら歩いた。位置につき、歩みを止めた彼の視線は、これから対決する相手の入場口をじっと見つめている。
『対するは、フグオカが生んだ最強の闘犬! ヘビィィィイイイドッグゥゥゥウウウ!!!』
ヘビードッグが入場する。観客はさらに盛り上がりを見せ、ボルテージは最高潮に達した。
「黒髪のショートカットに切れ長の瞳。引き締まった筋肉に男を感じさせるガタイの良さ。まさにキュウシュウ男児ねえ。見惚れちゃうわ」
「それはどうも。あなたこそ、鍛えてないとその体つきにはならないでしょう」
「お褒めいただき光栄だわ」
一言ずつ言葉を交わすスカーレットとヘビードッグ。和やかな会話とは裏腹に、ヘビードッグは勝つことへの執念に燃えていた。
『それでは参りましょう。レディーファイトッ!!』
試合開始の鐘が鳴り響いた。
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