第4話 オネエとハーレム第一号

 トーチギ戦から数日後、鬼怒川太一は赤間に呼ばれ、イ・バラキ県に来ていた。


「あ、来たわね。こっちよこっち」


 待ち合わせの場所にはすでに赤間が立っていた。しかしその姿はオネエではなく、長身のイケメンの男性だった。太一は混乱した。いったいこの人にはいくつ顔があるのだろうと。駆け寄ると、目の前には喫茶店があった。よく見ると外装だけで、店内はまだ未完成のようだ。


「ここはね、私の店よ」

「ベニさんの店……」


 喫茶店に見えて実はえげつない夜の店なんだろうか。この人の趣味は理解ができない。太一は、自分の想像にゾッとした。


「太一あなた、失礼なことを考えてるんじゃないでしょうね。ここは健全な店よ! お昼は喫茶店、夜はバーをやろうと思っているの」

「あ、それは、素敵な、店ですね」

「でも危機感を持つのはいいことだわ。世の中私みたいにいい大人ばかりじゃないもの」


 いい大人は裏闘技場であんな強烈なビンタはしないんじゃないか。と、太一は考えたが、何を言われるかわからないので言葉にするのはやめた。


「それに他人事じゃないわよ。これからここがあなたの職場になるのだから」

「……え?」

「私の夢はね、イケメンを集めてイケメンだらけのお店を開くことなの。あなたはその記念すべき第一号よ」

「……もしかして、そのために試合中、俺のことあんなに見てたんですか?」

「そうよ! 一生懸命私に向かってくる姿、可愛かったわあ。それに、あんなに熱くなれる男なんてなかなかいないもの。うちのお店で働くのにぴったりだと思ったわ」


 太一は褒められることがあまりなかったこともあり、この状況になれてない。赤間に正面から褒められて、どう反応していいか困惑していた。


「お店の内装も、もうすぐ完成するわ。副業で貯めたお金に太一とのバトルの賞金で、開業資金が貯まってね。これから忙しくなるわよー!」

「……待ってください。俺が第一号って、まだ店員揃ってないんじゃ……」

「それはこれから集めるのよ。その為に私は闘っているんだもの」


 太一は唖然とした。まさか、自分の私利私欲のためにプレイヤーを手に入れようとする人がいるなんて。やはりこの人の考えることは理解できないと感じたのだった。







「あら、矢田ちゃんからだわ」


 2人で話していると、赤間に一通のメールが入った。


《お疲れ様です。次の試合が決まりました。下記に詳細を記載しましたのでご確認ください。


 開催日時:2月16日(明日)21時00分

 開催場所:フグオカ県ポイポイドーム地下シェルター

 対戦相手:フグオカ県代表 ヘビードッグ


 それでは明日、よろしくお願いいたします。》


「さっそく明日、次の試合が決まったわ。相手は、ヘビードッグ、だそうよ」

「え!? ヘビードッグですか!? 俺、一度戦ったことがあるんですけど、元キックボクサーらしいです。しかもかなり強かったっすよ。俺も腕力に自信はあったけどあいつは俺の比じゃないっすね。悔しいけど。それに黒い噂もあるらしくて……」


 太一は自分が知っている限りの情報を赤間に語る。赤間はそれを静かに聞いていた。


「まあ、闘ってみたら相手のことも分かってくるでしょう。明日を楽しみにするわ。ただ、私だけ一方的に色々と知ってしまっているのはフェアじゃないわね」

「いや、情報も立派な武器っすよ。それにベニさんは他にいないほど目立ちますから、相手にもそれなりに情報渡ってそうっすよね」

「そうかしら。じゃあ、今回は気にしないでおくわ」







 同日、フグオカ県、県知事室。そこには、フグオカ県知事の二重丸小吉にじゅうまるしょうきちとフグオカ代表プレイヤーヘビードッグがいた。


「次の試合が明日に決まった」

「はい」

「イ・バラキ県代表だそうだ。こいつは今年から参加の新参者だが、あのトーチギ県のキッドを倒している。油断はできん相手だ」

「はい」

「勝つためなら何をしても構わない。負けることは絶対に許さん。負けた時はどうなるか、お前が1番分かっておるだろう」

「分かっております。何としても必ず、フグオカ県に勝利を……」

「それでいい。要件はそれだけだ。さがれ」

「……失礼します」



 ヘビードッグは静かに扉を閉め、知事室を立ち去った。その表情は、追い詰められた獣のように、ひどく強張っていた。

 

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