第2話 オネエ、初陣(開幕)
初戦当日。赤間は矢田から来たメールをもとに、開催場所である旧トーチギ県民記念体育館跡地に来ていた。
《開催日時:2月8日(明日)21時00分
開催場所:旧トーチギ県記念体育館跡地
戦闘時の衣装とバトルネームを用意してください。》
シンプルなメールだった。赤間は元々オネエバーで着用する予定だった1着のドレスを持ち、矢田との待ち合わせの場所に向かった。
「おはようございます」
集合場所に着くと、すでに秘書の矢田が待っていた。
「おはよう矢田ちゃん。一張羅持ってきたわよ」
「ありがとうございます。次回からは、今回持ってきていただいた衣装をもとに、こちらで用意いたしますのでご安心ください」
「あらそうなのね。じゃあよろしく頼むわ。今日は知事はいらっしゃらないのかしら」
赤間は周辺を見回すも知事の姿は見えず、いるのは矢田と自分のみ。対戦相手すら見えない。
「知事は既に観戦室にいらっしゃいます。『期待しているよ』とのことです」
「任せてちょうだい。それで、この後はどうすればいいのかしら」
「今から会場に入っていただきますが、その際、係のものによる持ち物の検査を受けていただきます。人の命を奪いかねない武器の持ち込みは禁止ですのでご注意ください。その後は受付にイ・バラキ代表である証明とリングネームを提出してください。代表者である事はこちらの腕輪が証明してくれますので、くれぐれも無くさないようにお願いします」
と言って渡されたのは、鮮やかなブルーのバラがワンポイントで描かれたシルバーの腕輪だった。
「あら、良いセンスしてるわね。気に入ったわ」
「……それでは、会場にご案内します」
矢田は、赤間を連れて会場の入り口を目指した。
危険物検査と受付を終え、控室で衣装に着替え待機していると、コンコンと扉をノックする音がした。
「失礼します。そろそろお時間ですので移動をお願いします」
スタッフに移動を促され、赤間はプレイヤーデビューの会場に足を運んだ。
『さあ、今年も始まりました。プリフェクチャーバトル! 第1回戦はトチーギ県対イ・バラキ県です。実況は私、白瀬カタルと』
『
『の、2人でお送りします』
会場は各県の議員客や大手企業の役員等で埋まっている。もちろん一般客などいない。これは元々非公式の裏闘技大会である。したがって試合会場も人気のない跡地など、廃れた建物がよく使われるのだ。中でも旧トーチギ県記念体育館跡地は至ってシンプルな造りとなっていて、中央にバスケットボールのコートが二面分と、それを囲うように観客席が連なっている。
『それでは早速選手に登場していただきましょう。トチーギ県代表、怒れる鬼神、キッッッッドォォォオオ!!』
トチーギ代表がリングインする。背は少し低めで170cmくらいだろう。茶髪の髪を少し遊ばせて左耳にはピアスが揺れる。目は大きく二重が印象的だ。ボクサーのような格好で、腹筋が綺麗に割れて輝いている。
客席は一気にボルテージが上がり、歓声も沸き立っていた。
「キッドー!! 今年は期待してるぞー!!」
「一発決めてやれー!!」
『いやぁ、一気に会場が熱くなりましたね。キッド選手は若くして昨年度は関東ランキングで3位に入るなど、強さは折り紙付きの実力派選手です。今年も大活躍が期待されますね、押江さん』
『そうですね。彼の一発は力強いですから。楽しみです』
『続いてイ・バラキ県代表、スカァァアアアレットォォオオオオ!!』
赤間、いやスカーレットがリングに入る。瞬間、会場はざわつき始めた。それもそうだろう。大の男が真紅のドレスを見に纏っているのだ。しかも体格も良く、まるでダビデ像のように引き締まった筋肉を持っている。観客も驚きは隠せまい。
『不思議な出立ちでリングインしましたスカーレット選手。彼は今年初出場の選手です。どんな活躍を見せてくれるのか、楽しみですね』
「おい、オネエさん。ここは殺す事以外、肌を切ろうが骨を折ろうがなんでもありの危ない場所だぜ。いくら良い体つきだからって、あんたみたいなのが来るのはちと危ないんじゃないか?」
「あら、お気遣いありがとう。優しいのね。でも大丈夫よ。わたし、強いから」
「言ってくれるじゃねえか。手加減は、なしだぜ」
『それでは参りましょう。レディーファイトッ!!』
ゴーンと開始の鐘の音が鳴る。会場の視線は一気に選手へと向かった。
開始から1分、始めに動き出したのはキッドだった。
「いくぞオネエさん! ッオラ!」
キッドから力強いパンチが飛ぶ。スカーレットはそれを避けながら、キッドの動きを見ていた。
『キッド選手の素早いパンチはその速さだけでなく、繰り出される回数も桁違いですからね。時折繰り出される蹴り技が、相手の呼吸を乱していきます。スカーレット選手もなかなか攻撃に踏み出せません』
『気をつけてほしいのはキッド選手がつけている指輪たちですね。両手の人差し指から薬指まで、3つずつはめられた五角形の指輪が肉を抉るように体に食い込んできますから』
ひたすらに繰り出される攻撃たち。それは一発でも当たれば致命傷になりかねないものばかりだ。スカーレットは防戦一方を強いられる。
「避けてるだけじゃ勝てねえぞオネエさん」
「だって当たれば痛いじゃないの、それ。それにあなたは強いわ。当たったら大怪我よ。」
「分かってるじゃねえか。俺のパンチは速さだけじゃねえ。この指輪も特注でな。一発当れば肉に食い込んで痛てえぞぉ」
スカーレットはキッドのパンチを避けながら、指に当たらないよう腕を叩いて攻撃を流す。
一見、一方的に押しているように見えるキッドだったが、攻撃がなかなか決まらないことに焦りを感じていた。
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