異世界鉄道 おまけ 夜の翼通信
自作の時計が夜9の鐘を告げた。
そろそろだな、僕はそう判断して屋上へ出る。
僕の家は1フロア3階建てという構造。
つまりはまあ、細くて高い造りだ。
何故そうしたのかを知っているのは、僕の他には当事者の一人であるカールだけ。
僕は真南の方向へ向かって魔力探査をかける。
木々の影響が少ない屋上から、範囲を絞り、背景が雑音が少ない空に向かってという条件ならば
カールなら同じ条件で
まだ何も感知できない。
ただ対象物の動きは速い。
だから油断せず探査を続ける。
見つけた。
ごく小さな鳥と見間違う程度の反応だが、それと知っていれば間違いない反応。
魔力の糸を伸ばし、
あとは
今晩は風が無いのであっさり庭に着地成功。
屋上から階段を下りて、更に玄関経由で庭に出て、ほっそりとしたシルエットのゴーレムを持ち上げる。
全長は僕の身長ほどあるが重さは
華奢なので取扱いには割と気を使う。
○
○
○ 時速
なんて超高性能を誇る。
国内に類似のゴーレムは存在しない。
唯一無二の代物だ。
元々は学生時代カールが作った鷹型ゴーレムが原型。
ただ学会で発表したり、存在を公にしたりはしていない。
何故ならカールは発表する事による名声等に興味がなく、作れてしまった物には興味を無くすから。
つまり作ったらあとはほったらかし。
製作物も大抵はそのままゴミになるだけだ。
ただこの
魔術式による自動空気噴出機構とか慣性誘導なんて技術をくっつけたりして。
結果唯一無二の飛行型実用ゴーレムが完成。
現在はバンドン郊外にあるローチルド伯爵私邸と此処を週に1往復している。
御嬢様と言うのは僕が彼女を呼ぶ際のあだ名みたいなものだ。
イザベラ先輩はカールの同級生で僕の先輩。
代々王立研究所長を世襲しているローチルド伯爵家の長女で現在は王立研究所の主任調査官でもある。
本人曰く『周りが親の身分で職についたような馬鹿ばかりだから苦労している』との事。
そんな彼女の愚痴と文句とため息を乗せ、
本来なら受けとって返答すべきなのはカールだ。
しかしカールは手紙を書くのが大の苦手。
なおかつ
そして
製作バカと研究バカなので対人能力に欠けているのだ。
その癖お互いを意識しまくっている。
結果として僕が割を食ってこういう役目をやる羽目になる訳だ。
今にはじまった事では無いのだけれども。
今回入っていたのは金属板1枚と地方の新聞。
この金属板は
途中で拾われてもわからないよう暗号になっている。
普通に見た限りでは小穴の空いた板としかわからない。
僕はこの金属板と印字用の紙を暗号解読機にセットする。
この暗号解読機は歯車式演算機の応用で作ったもの。
他には
セットしたら暗号解読機の横にあるレバーをゆっくり回す。
歯車が動いて金属版の穴の位置を読み取り、対応する文字をタイプライターと同様の機構で印字する。
100回転ほどさせると紙3枚分の手紙となった。
手紙の内容はいつも通りなら3割が中央の研究動向、3割がバンドンにおける政治動向、1割がカールの動向伺い、残りは愚痴だ。
スウォンジーのような田舎にいるとこういった情報はありがたい。
こちらでは入手できない情報もバンドンなら簡単に手に入るし。
ただ毎回手紙を読んで思うのだが、貴族とはなかなか面倒なもののようだ。
カールは親と疎遠なのをいい事に貴族から逃げたし、僕は元々平民。
だが中央貴族バリバリなのに子供に男子がいないローチルド伯爵家の長子である
本人は公には『学問と結婚した』と言って婿を断っている。
しかし僕は知っている。
『馬鹿と結婚なんて死んでもしたくない』
逃げてさっさとカールとくっついてしまえと思うのだが、そうもいかないらしい。
まあ自分の事では無いから、僕としては強く言えないけれど。
今回の手紙は特に緊急の内容はなかった。
強いて言えばマリウム商会の動きが気になる位だろうか。
マルケット子爵家やマシオーア伯爵家で何やら実験的な事をやっているらしい。
新聞はその資料という事だ。
あとの内容は愚痴とカールの近況に関する質問くらい。
それでは返事を書くとしよう。
まずは手書きで書いて、それから暗号作成機を使って清書? するのが僕のいつもの手順だ。
まずは資料や情報への感謝と、カールの近況について。
人材が足りないので優秀だけれど身分のせいで恵まれない研究者等を見繕ってくれなんて依頼も付け加える。
書き終えたら暗号作成機のキーボードを打って金属板に暗号の穴を打ち込んだ手紙を作成。
ゴーレムの荷室に入れたら今夜分の作業は終了だ。
後は明日夜8の鐘ちょうどに夜の翼を飛ばせばいい。
風属性魔法で高度
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