異世界鉄道 147年4月 工房の採用方法

 カールは工房の長として、他の幹部と違う特権を持っている。

 鉱山時代からの物で、森林公社に移った後もそのまま持っている権利だ。


 その特権は『自由採用権』。

 工房の面子にふさわしいとカールが認めた者を正規のルートを通さず、カールの一存で採用していいという権利である。


 工房の人員は現在15名。

 鉄鉱山長就任直後、カール1人からはじまった工房が僅か2年でここまで成長した。

 その理由は簡単、我が国の専門高等教育機関卒のキャリアプランが駄目駄目だからだ。

 

『工科学校(もしくは魔道士学院)に入ったけれど、何にもならない理論ばかりで実質がない。評価も研究の中身より研究者の身分の方に引きずられている。卒業後の研究者採用も研究実績より身分を重視』


 そんな世界に絶望し、かつ実力のある学生や卒業生をカールが甘言でたぶらかして引っ張ってくる。

 どうやらその辺、怪しい情報ルートがあるらしい。

 僕は残念ながらよく知らないけれど。


 そしてこの4月。


 僕は工房の会議室でカールから渡された書類を確認する。

 書類は工房採用予定の新入社員3名のもの。

 今回はそれぞれ学校を卒業したばかりのようだ。


「生物属性レベル5持ちもいるのか。珍しいな」


「ああ。あぶれていたからありがたく引っ張ってきた。これで新型ゴーレムの研究開発も進む。専門ではない俺ではこれ以上は手をつけられん」


 微細生物の回転運動を使用したゴーレムの事だろう。


「あのゴーレムを開発したのはカールだろう」


「ああ。だが俺では今までこの生物について発表された内容を元にして作るまでしか出来ない。より進化させる為には生物そのものの方の研究も必要だ。そして今回採用したリノはまさに専門が微細生物学だった。適任だ」


「あと2人、エルダとヒルデはどんな奴だ?」


「2人ともゴーレム専攻の実作系ジャンキーだ。バランスよく高属性だから即戦力になる」


 実作系ジャンキーとは工房に最も多く生息するタイプだ。

 概ね6割が実作系ジャンキー、4割が研究屋。

 まあジャンキーも研究はするし、研究屋も必要があれば工作に回るのだけれども。


「わかった。人事に特別採用決定として回しておく」


「3人とも4月5日で寮を出される。社宅の手配も頼む」


「わかった」


 シックルード領の公社は福利厚生をその分充実させている。 

 さらに給与も他領の公社より高い。

 そうしないと田舎だから応募者が来ないから。


 だから社宅完備、自宅を借りたり購入したりする者には住宅手当あり。

 そして工房採用者は学歴等を鑑み給与も優遇している。

 通常の事務員の2倍、国立研究所の5割増しの給与。

 まあ僕が私費である程度出していたりもするのだけれども。


 なお休日も他領の公社や国営公社より多い。

 しかし工房採用者はこの辺がかなり怪しくなる。

 採用されて3ヶ月もすると、平日も休日も週休日も祭日も工房に常駐するようになってしまうから。

 強制している風もないのだが、何故か。


 きっと採用している奴が悪いのだろう。

 勇将の下に弱卒無し。

 それとも環境要因の方だろうか。

 朱に交われば赤くなる的な。


 いずれにせよカールと工房のおかげで鉄道が出来たし、日々進化しているのだ。

 少しくらいの歪みは多めにみよう。


「それじゃ人事と厚生に話を通してくる」


「頼んだ」


 僕は立ち上がり、森林公社本部事務棟の方へと向かうのだった。

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