フレミングの法則 ~ 踊る赤髪の落ちこぼれ撃墜王 Dancing Maroon of the Scheduled Ace ~
第40話:後でお話ししようと思ってたのですが、私達には秘密兵器があって……
第40話:後でお話ししようと思ってたのですが、私達には秘密兵器があって……
中隊対戦シミュレーションは、フレミングvsファラデー、ファラデーvsテイラー、テイラーvsマクスウェル、マクスウェルvsフレミング、という順番で、対戦カードをローテーションしながら行われる。戦闘時間は30分とし、対戦後に15分の意見交換-これは48人全員で行う-と15分の休憩を入れて1セット60分。これを繰り返していく。シミュレーションだけに離発着や機体整備の時間が不要であり、短時間でより多くの戦闘訓練を実施できる。尤もそれは、パイロットにかかる負担が大きいことと同義ではあるのだが、若いパイロット達には今のところ心身両面における不調は見られない。
フレミング中隊12人の
「なぁ、フレミング。そっちの新任の4人には、これが初めての中隊飛行だろ? 何故そんなに簡単に連携が取れたんだ?」
ファラデー中隊にも2人の新任少尉がいるが、ややもすればここが中隊の弱点となりがちであったファラデー中隊であった。連携運動から遅れて
「あぁ、先輩、すいません。後でお話ししようと思ってたのですが、私達には秘密兵器があって……」
『秘密兵器』という言葉に敏感に反応したトリガーハッピーが興奮気味に問う。
「秘密兵器って何だ、フレミング? もしかして、
マクスウェルの質問に、やや呆れ返ったファラデーが返答する。
「マクスウェルは相変わらずだな。
むしろ、中隊のミサイル発射数ではファラデー中隊の方が多かったくらいである。ある意味においては、ファラデー中隊が無駄弾を射たされていた一方で、フレミング中隊は必中弾だけを放っていたとも言える。
「すいません、あの……有効性を確認してからお話ししようと思ってたので……」
『秘密』にしていたことを詫びた後、後輩が説明を続ける。
「私達の中隊では、
「あぁ、なるほど、それでか……フレミングは昔からそういう、特異な機能を考えるのが得意だったからな……その、
状況を納得したファラデー先輩はそう言って、他の2人の中隊長を見廻す。
「こやっさん。先輩達も使えるようにできる?」
「昼休憩の間に作業しときますんで、午後の訓練からであれば」
******************************
「さっきのファラデー先輩との対戦なんだけど……」
「何だ、中隊長? 初めてにしてはアタシら、上手く連携できてたじゃねぇか。やっぱ、あのエリア何たらのおかげだよな。アレさえあればアタシら、いつでも行けるぜ、なぁ?」
不安そうな口調で問いかける中隊長に、パパン先輩が感想を述べながら自分の小隊に同意を求める。求められたカルマン、ボース、ミリカンもそれぞれに頷いている。特に新任のボース、ミリカンには、それなりの手応えが感じられていた様子が、その態度からも明瞭であった。
「うん、そうなんだけど……」
ファラデー中隊との対戦時、フレミングは中隊の隊形を
「やっぱり……あの隊形では連携が遅くなるよね」
フレミングはこの
場が暗い雰囲気になりそうになるのを見かねて、慌ててフレミングが続ける。
「それでね、えっと……午後からは、いろんな隊形を試してみたいと思うの。
これは賭けである。訓練に充てることのできる時間は短い。その少ない時間を、基本隊形の習熟に使うのか、それとも最適な隊形の発見に使うのか。無論フレミングは色々試してみたいと考えているが、そのことがみんなを混乱させてしまうかもしれないのだ。こういう時……
「私も、フレミーちゃんの言う通りだと思うわ。大丈夫。フレミーちゃんはもっと自分を信じていいわよ」
「ガリレイも中隊長を信じてる」
「中隊長! アタシもだぜ」
3人のお姉ちゃんの後押しに少し意を強くしたフレミングは、3人に謝意を述べた後、同期生にも確認する。
「ありがとうございます。トリチェリ先輩、ガリレイ先輩、パパン先輩。みんなも、それでいい?」
キルヒーとケプラーは言うにおよばず、カルマンもプランクも、そして4人の新任同期生も、みなフレミングの目を見て頷いてくれた。
******************************
いくつかの試行錯誤の結果、フレミング中隊は
「それにしても中隊長、あの感覚はどうやって身に着けたんだ?」
圧巻であったのはフレミングのミサイル発射タイミングである。
「ガリレイにもアレは真似できない」
フレミングの発射するミサイルは当然敵機の回避行動を誘うが、その行動がまた
「えぇ~、何となく……かなぁ?」
「Bet on it!」
などと言ってプランクなどは何度かそれを試してみたのであるが、脅威度が改善されるのはせいぜい6割程度の確率であった。2割はよく言って現状維持、残りの2割に至っては更に状況を悪化させる始末である。そんな時にはガリレイが独断専行して得意の
「次の対戦訓練では、フレミーちゃんがミサイル発射を指示してみる、というのはどうかしら?」
こうして訓練を行う度にフレミング中隊は練度を上げていく。どうやらフレミング中隊12機の連携運動は、休戦明けまでに何とか実戦レベルに到達することができそうであった。
******************************
新機能を搭載した初めてのシミュレータ訓練が終わった夜、
「ねぇ、フレミーちゃん。中隊編成はフレミーちゃんが自分で考えた、って聞いたのだけれど、私ね、嬉しかったわ。フレミーちゃんが私を小隊メンバーに選んでくれて……」
突如そのように言われたフレミングは、トリチェリ先輩の意図がよく分からずに聞き返す。
「トリチェリ先輩、もしかして先輩は……私がガリレイ先輩を小隊長に選んだこと……」
不安そうな後輩の表情を見た
「ううん、フレミーちゃん。そんな心配はしなくていいわ。私はね、本当に嬉しかったの。私を、フレミーちゃんの小隊に残してくれて」
「えっ? どういう意味ですか、先輩?」
「そのままの意味よ。だってね、フレミーちゃんは、私を必要だと思ってくれたから、私を残してくれたんでしょ?」
その通りであった。フレミングにはトリチェリ先輩を小隊長にする案もあったのだ。しかしその案を選択しなかったのは、無論全体のバランスを考慮した結果でもあるのだが……
「トリチェリ先輩、本当は先輩に小隊長を、とも思ったんですけど……私のわがままで……やっぱりトリチェリ先輩には側にいて欲しいなって……」
最後まで言わない前にトリチェリ先輩がフレミングをぎゅっと抱きしめる。
「フレミーちゃん、ありがと。私を選んでくれて。それから……色々一人で考えて、偉かったね」
後輩たちの頼れるお悩み相談所は、戦時中であっても癒しを提供してくれる。やっぱりトリチェリ先輩がいてくれてよかった。そう思ったフレミングは素直に頷いた。
「はい……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます