第2話:AMF-75Aは無人機じゃない!
「お嬢、全くなんて無茶な
振り返ると、口調の激しさとは別に口元をわずかに綻ばせたおやっさん、チャンドール整備准尉の顔が見えた。チャンドール准尉は機付長、すなわちフレミングの愛機を
「そりゃ悪かったとは思うけど、どう、おやっさん? ちゃんとコブラしてたでしょ!?」
「いや、まぁそりゃ……」
フレミング達の乗る機体AMF-75Aは、バーラタ共和国の最新鋭ジェット戦闘機である。
「でしょ!?」
確かに、フレミングの操縦の腕にはおやっさんも一目置いている。今日フレミングの見せた魅惚れるほどのコブラなど、ベテランパイロットにだってそう易々と実施できるような演目ではなかろう。ましてや
「だがな、そもそも機体が
怖くなかった、と言えば嘘になることをフレミングは知っている。ともすれば機体がロールして
「だって、翔ぶのって楽しいでしょ!」
一瞬の沈黙はおやっさんの同意の現れであろうか。しばらくしておやっさんが口を開いた。
「まぁ、そうかもしれんがな、お嬢……だが、今の時代に
バーラタ共和国航空宇宙軍は、「操縦士指向分隊編成」、通称「ヒメシステム」と呼ぶ独自の編成を行っている。通常パイロットと整備士はそれぞれ飛行群司令や整備群司令の隷下に所属するが、ヒメシステムではパイロットが分隊長となり、機付長以下整備士はその隷下に所属することになる。この一見変わった編成はバーラタ共和国の地理上の特性から策定された基本戦略に基づいていた。そもそもバーラタ共和国はオリエント大陸最南端に存在する半島国家-半島国家と言っても東西約2,000km、南北約1,800kmの半島は亜大陸とも呼ばれる-であり、その東・南・西の三方は海で囲まれている一方、北方は標高8,000m級の山々が連なる山脈が事実上の防壁となっている。つまり仮想敵の侵攻経路は東部国境付近の低湿地帯と西部国境付近の砂漠地帯を除けば、ほぼ海上となることが想定されているのである。従って航空宇宙軍の主敵は海上から侵攻する敵の航空機並びに水上艦・潜水艦と設定されており、これらが国土上空に飛来あるいは海岸線に上陸しない前に補足殲滅することが航空宇宙軍の任務である。よってバーラタの戦闘機に求められる要求性能では
「じゃぁおやっさんは、AMF-75Aが
今度はフレミングの方が詰問する口調になる。自分は少なくとも
「いや、オレだってAMF-75Aは史上最高の
結局のところ、設計が同じ機体であっても
「だったら分かるでしょ。私はパイロットで、
「機械の面倒は見れても人間の面倒までは……」
無論そんなことは口に出せる訳もなく、おやっさんは人生の苦悩を噛み潰したような少し渋みのある落ち着いた口調でフレミングにこう問いかける。
「そう、お嬢の言う通りだ。AMF-75Aにはお嬢が乗っていて、お嬢が
「うん……」
「で、だ。これまたお嬢の言う通り、
「……」
「で、お嬢に聞くが、それじゃぁ何でわざわざ
何故
自問する少女を今度は労わるような視線でしばしの間見つめた後、おもむろにチャンドール准尉は神妙な口調で解を与える。
「それはな、お嬢。戦争ってのは人間がするもんだからさ」
先ほどまでの興奮が静まったかのようなフレミングに、少し明るい口調に戻ったおやっさんが告げる。
「まぁ、ゆっくり考えることだな。それよりも、お嬢。校長閣下に呼び出し喰らってんじゃねぇのか?」
「いけない、そうだった。おやっさん……今の
「ヒメさん、うちのお嬢が申し訳ねぇ。まぁ、よろしく頼む!」
おやっさんが気軽な口調で、同じ
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