第6話 ねずみドラゴンとピンチ

(前回のあらすじ:ねずみドラゴンに『まぼろしのオーブ』の話をしたにぼし男。それなのにこっそり起き上がったにぼし男はこの期に及んでねずみドラゴンを捕まえるつもりなのでしょうか……)


 ねずみドラゴンがスースーと寝息を立てて寝ています。

「フッフッフ……ぐっすり寝とるな」

 そのすぐそばに立っているにぼし男が小声でつぶやきました。その手には猛獣を捕まえるためのバンドがいくつも握られています。

「お前と話すのは正直楽しかったが、ワイは冷酷れいこくなトレジャーハンターなんや……苦労してここまで来たからには、手ぶらでは帰れへん。ねずみドラゴン、悪いが捕まえさせてもらうで」

 にぼし男はそう言うと、バンドをねずみドラゴンの腕に掛けようと振りかぶりました!

「チュチュッチュウ……」

 ねずみドラゴンがポツリとつぶやきました。にぼし男が振りかぶったままでビクリと止まります。

 もしやねずみドラゴンの目が覚めたのでしょうか!?

 いいえ、よく見てください。ねずみドラゴンはまだスースーと寝息を立てて寝ています。どうやらさっきのつぶやきは寝言だったようです。ニコニコしながら寝ているようですが、冒険の夢でも見ているのでしょうか。

「な、なんやビックリさせよって。ほな、悪いが今度こそ捕まえたる!」

 にぼし男はそう言うと、ふたたびバンドを振りかぶりました!……しかし。

 にぼし男は力なく腕を下ろしました。ねずみドラゴンの楽しそうな寝言と幸せそうに眠る姿は、昼間冒険の話を聞いている時の楽しそうで幸せそうな笑顔をにぼし男に思い出させました。そして、ふと「ワイがコイツを捕まえに来たと知ったら、コイツは悲しむんやろうな」と思ってしまったのです。

 にぼし男はなおも「一流のトレジャーハンターは情に流されんのや」「ワイはやると言ったらホンマにやる男やぞ」などとつぶやきながらバンドを振りかぶりますが、ねずみドラゴンの寝顔を見ると腕を下ろしてしまいます。何度やっても同じことでした。

 にぼし男にはもう、ねずみドラゴンを捕まえる事は出来ませんでした。

 にぼし男はお布団に座り込み、そのまま一睡もする事なく一晩中何かを考えこんでいました。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 コケーッコッコッコッ!コケーッコッコッコッ!

 どこからかシャインネスニワトリの鳴き声が聴こえてきます。

 ここはとてもとてもけわしい、霧が深い山。あたりは明るくなり始めています。空にはサンオレンジの太陽が眩しい光を放ってきれいに澄んだ滝と川を輝かせていました。朝になったのです。

 そして、そこにある、岩壁のようなドアに隠されたねずみドラゴンの家の中では、ちょうどねずみドラゴンが目を覚ましました。よく眠ったようですが、まだ少し寝ぼけ顔。いつもならまず川で水浴びをしに行くのですが、今日は新しくできた友達を家に泊めたことを思い出しました。朝のあいさつをしなければなりません。そう思ったねずみドラゴンはにぼし男のいるとなりのお布団を見ました。

 そこにはすでに起きて、お布団に座っているにぼし男がいました。まるで一晩中寝ていないかのような疲れた顔をしていましたが、同時に何かを決意したような顔もしていました。

「チュッチュ……」

「なあ、ねずみドラゴン」

 にぼし男は真剣な目をして真っ直ぐねずみドラゴンを見ながら、いいました。

「ワイと一緒にまぼろしのオーブを探す旅に行かへんか?」

「…………!!!」

 一瞬いっしゅん、間があって。

 ねずみドラゴンは前足を合わせて眼を輝かせながら大きな声でいいました。

「チュチュッチュウ!!!」

 こうしてねずみドラゴンとにぼし男は冒険の旅に出ることになりました。

 はたして二人の行く先には一体何が待ち受けているのでしょうか……


(つづく)

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