第4話 ねずみドラゴンとおもてなし

(前回のあらすじ:にぼし男をお客さんとしておもてなししたいねずみドラゴン。はからずもにぼし男を家に引きずり込んでしまいます。にぼし男に怖がられてしまうのでは?)


 ねずみドラゴンとにぼし男は、家の中で向かい合って座っていました。二人の目の前にはドラゴン・ティーが入った湯呑みが置かれています。家の中は割と綺麗に片付いており、掃除が行き届いています。床や壁は私達の世界でいうリノリウムのような素材で出来ているようです。

 ねずみドラゴンの家は元々あった洞窟どうくつを、ねずみドラゴンが頑張って自分でさらに掘り進めて作ったもので、意外にも結構な広さです。(私達の世界で言う東京ドーム0.1個分位あるのではないでしょうか)それでも小さめのアフリカゾウ位の大きさのあるねずみドラゴンにとっては、多少窮屈きゅうくつ(せまいこと)に感じる時もあるようです。

 おや、先ほどまで青い顔をして白目を剥いて赤い座布団に座っていたにぼし男が、やっと冷静になったようです。ねずみドラゴンがにぼし男をおもてなししたいのだと気付いたようですね。

(と、とりあえず取って喰われる事はなさそうやな。チョコレートのお礼のつもりなんか?コイツ結構いい奴なのかもしれんな)

「チュウチュウ」

 ねずみドラゴンはニコニコしています。この家に住んで初めてのお客さんなので、うれしいのです。お皿に載せたドングリをにぼし男に勧めます。

 にぼし男は神妙しんみょうな顔でそれを食べながら、

(しかし、どうしたもんやろな。コイツを捕まえるのがなんだかかわいそうになってきたな。そもそもどうやったら捕まえられるんやろ?)

 と考えていました。

 さっきからねずみドラゴンはしきりにドングリとドラゴン・ティーを勧めてばかりいます。これがねずみドラゴン族に代々伝わるおもてなしのやり方なのです。

 そしてこのおもてなしは、知らないうちににぼし男の体にある変化を生んでいました。ドラゴン・ティーをドラゴンであるねずみドラゴンと一緒に飲むことによっておそるべきドラゴン・パワーが伝わり、体がものすごく丈夫になり、さらにねずみドラゴンの言っていることがほぼ正確にわかるようになったのです。

 ちなみにドングリは特に関係ありません。ただのお茶うけです。

 おや、ねずみドラゴンがにぼし男に自分のことを紹介しているようです。

「チュチュッチュウ!チュウチュチュウチュ、チュウチュチュウチュ!チュウチュチュッチュ?(はじめまして!ぼくはこの山にすんでいる、ねずみドラゴンです!にぼし男さんはどんな人?)」

 にぼし男も少し緊張しながら答えます。

「ワ、ワイはトレジャーハンターのにぼし男や。好きなものは肉と酒や。世界中を冒険して珍しいお宝や動物や植物を探し出す仕事をしとるで。よろしくな!」

 それを聞いたねずみドラゴンの様子が変わりました。前に身を乗り出してなんだかそわそわしているようです。

「チュッチュウ……?」

 にぼし男はふたたびあせります。

(アカン!今の話でこいつを捕まえに来たことがバレたか……?)

「そ、そのやね、珍しい動物といっても別に……」「チュッチュウ!(冒険!)」

 ねずみドラゴンは前足を合わせて眼を輝かせながらいいました。

「チュッチュウ!チュッチュチュッチュウ!」

「え?冒険の話をくわしく聞きたい?なんやあんさん、冒険にあこがれとるんか」

「チュウ!」

「よっしゃ!まかせとき!とっておきのおもろい話したるで!まずはウズマキ海域かいいきの底に沈んだ300年前のお宝を取りにいった時はな……」

 これまでの冒険の話を楽しそうに話すにぼし男とそれを興奮して聞き入るねずみドラゴン。あっというまに時間は過ぎて、いつしか日が暮れていくのでした。


(つづく)



 

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