第2話 ねずみドラゴンとにぼし男

 ねずみドラゴンは、とてもとてもけわしい山の洞窟に戻ってきました。そう、ねずみドラゴンの家です。

 ねずみドラゴンの家は、普段は岩壁のようなドアで隠されているため、外側からは分かりにくいようになっています。家の近くにはきれいに澄んだ滝と河が流れており、ねずみドラゴンはそこから魚を捕ったり、水を飲んだり、滝をシャワー代わりに水浴びをしたりしています。(ねずみドラゴンはきれい好きなのです)

 その河から、ヌッと魚の頭が顔を出しました。一体どうしたというのでしょう。あっ!?よく見てください!魚の頭の下には人間の体がついているではありませんか!

「ハァハァ……やっと着いたで……ここがねずみドラゴンの棲家か……」

 賢明な読者の方はもうお察しでしょう、この怪しいエセ関西弁の人物が前回の終わりでねずみドラゴンを付け狙っていた人物だということを!

 この人物の名はにぼし男といいます。


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 にぼし男は異世界転生にぼしである。小魚として生を享けあっという間に釣られて死に、念入りに日乾しにされるどこかしらの過程でこのにぼしは知性を獲得した。したのだ。とにかくそういうもんなのだ。

 にぼし男となる前のにぼしは自分が出汁を取られる為の存在である事には納得し、覚悟を決めていた。誇りにさえ思っていた。だが、あろうことか味噌汁の出汁を取ろうとした人間の不注意により、にぼしは三角コーナーに落とされ、そのまま燃えるゴミの日(火曜日)にゴミに出されてしまったのだ。

 焼却炉で身体を灼かれながらにぼしの心も無念に灼かれていた。そして死後強まる念により、この世界ににぼし男として転生したという訳である。


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 ねずみドラゴンは、前足で器用にドアを開け、家の中に入って行きました。ドアがパタンと閉まった後、にぼし男は忍び足で家の前まで近づきます。

「フッフッフ……ナリはデカイがまだ子どものようやな」

 そう言って、にぼし男はどこからかなにやら複雑な機械を組み立て始めました。どうやら家の前に罠をしかけるようです。

「よし!後はここにええ匂いのチョコレートを置くだけやな!取ったらガシャーンいうわけや!楽勝やで!」

「チュウ」

「賞金の使い道なんにしよ……まあまずは若いねえちゃんはべらして酒場で一番いい飯と酒やろな!楽しみやで!」

「チュウチュウ」

「なんやさっきからチュウチュウうるさいな……ギョーッ!?」

 にぼし男がふりむくと、ねずみドラゴンがすぐ真後ろにいました。ねずみドラゴンの嗅覚きゅうかく(匂いをかぐ力)をあなどってはいけません。チョコレートのいい匂いをかぎつけてきたのです。というかそれ以前に音でバレます。

「ヒッ……アワワ……」

(どどどどないしよ!近くで見るとめっちゃデカイ!おしっこ漏れそうや!まあワイ干物だからおしっこ出ないんやけど)

 早速見つかってしまったにぼし男はどうなってしまうのでしょう!?


(つづく)

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