第10話 事故

ある日の事だった。



放課後、部活に行く前の事だった。




「真央、ちょっと良いかな?」と、若南。

「うん」



私達は屋上に行く。



「何?こんな所に呼び出して。教室でも良かったんじゃ?」


「ううん。凄く大事な話だから2人きりになりたくて」


「そうか。それで…大事な話って?」


「真央、最近、変わった事ない?」


「えっ!?変わった事!?」


「劉樹君に何か言われなかった?」




ギクッ



「えっ!?…あー…」


「正直に話して欲しい。真央とは長い付き合いだし、これからも、ずっと付き合っていきたいから隠し事なしで過ごしていきたいの」


「…若南…」



私は、話をした。



「…でも、別に付き合っているわけじゃないし、付き合おうとは思ってないから」


「…そっか…。劉樹君の気持ち薄々、気付いていたんだ。劉樹君が、真央を目で追っている事。最初は気付かなかったけど、告白して気持ちに余裕が出来たからか周囲を見るようになって…真央は…夕飛君が好きなんだよね?」



ギクッ




「えっ…?…あ、うん…」


「今、真央…辛そうだもん。私も辛いけど真央のお陰で少しは進展してるって思えるから…私、告白してなかったら、もっと悩んでいたと思う」


「…若南…」


「真央がいたから、今、こうしていられるんだと思う…真央…改めて、これからも宜しくね!」


「うん」




私達は、部活に行く事にした。







人間は儚い


でも


人を愛する事で


強くなる時もあるし


弱くなる時もある




人間だから


支え合える




未来が分からないから


楽しいと思う


幸せだって


不幸だって


人それぞれの


人生の波があるから






数日後の部活終了後、私はぼんやりとしながら帰っていた。




その途中――――




「ちょっと、あの子、信号、赤なのに渡ってるよ」


「本当」




向かい側の信号待ちの人達の会話。


渡っているのは紛れもなく私の事だった。




そこへ――――





ブォーーン


一台の大型バイクが向かってくる。





次の瞬間―――――



私達は接触し、救急車で運ばれた。





「……………」



「……真央…?」




そこには母親がいた。




「…お母…さん…私…」

「オートバイと接触事故」

「…あ…そうか…。それで…オートバイの人は…?」

「大丈夫。命に別状はないみたい」

「良かった〜」



「それよりも自分の心配したらどうなの?全く!2回目よ!?」


「…ごめん…」





ある日の事。



「真央ちゃん」

「劉樹君…」



病室に劉樹君が見舞いに来てくれた。




「あれ?一人?若南と一緒じゃないんだね」

「若南ちゃんと一緒が良かった?」


「それは…まあ…。だって、若南は劉樹君が好きなわけだし、やっぱり、少しでも好きな人と一緒にいたいし」


「俺だったら嫌かな?」


「えっ…?どうして…?」


「じゃあ…聞くけど、自分の好きな人は入院している人が好きなのに、それ知ってて、一緒にお見舞い行ける?今の、真央ちゃんみたいなものだよ」


「えっ?」


「夕が彼女のお見舞いに行くのに、真央ちゃんが一緒にお見舞いに行くって事。彼女も嫌だと思うけど?違う?」


「…それは…」


「だから一人で来た。まあ、むしろ、真央ちゃん的には夕が良かったんだろうけど」



「…別に…そういうわけじゃ…」


「そう?別に隠さなくても良いよ。分かってるから」


「…劉樹…君…」


「真央ちゃんの心には…今…誰がいるの?」


「…えっ…?」


「やっぱり、夕?」


「…どうかな…?良く分からないかも…」




「………………」




「…ごめん…劉樹君は私が好きなのにね…」


「…本当。俺は真央ちゃんが好きなのに…俺の想いは一方通行…片想いのまま…。凄い独り占めしたいくらい大好きで仕方がないのに…君の心には俺はいない…」




切なそうに言う劉樹君の言葉に胸が締め付けられた。




「…劉樹…君…ごめんね…私…」




キスされた。




「…ごめん…」




「……………」




「それじゃ帰るよ」


「えっ?」


「ここにいると襲うかもしれないから」



ドキッ



「えっ…!?ジョ、冗談…辞めて!既にファーストキス奪われたんだけど!」


「クスクス…キスしたの2回目だしな」

「そ、そうだよ!」


「じゃあ3回目は、何処でキスした方が良い?ベッドの上でして、そのまま襲って良い?」



ドキッ


冗談をサラッと言う劉樹君に胸が大きく跳ねる。



「えっ…!?」


「な〜んて。じゃあな!」



帰り始める劉樹君。



「劉樹君っ!」

「何?」


「…ううん…ごめん…」




微笑む劉樹君。


そして歩み寄ると頭をポンと押さえる。


ドキン…



「早く退院して来な。待ってる」

「…うん…」

「…つーか…何で夕飛なんだよ…」

「えっ…?劉樹君…?」



抱きしめられた。



「マジ!独り占めして〜!」




そして耳元で……



「………………」


「…えっ…?」


「じゃあな!」




劉樹君は病室を後に帰った。




『アイツに渡したくない…』




そう耳元で言われたかと思うと



『アイツ…今、別に好きな女いる』




そう言われた。




「……好きな女…って…?…誰…?まさか…若南…?それとも…他の人?」




そして、劉樹君は病室のドアに寄り掛かり



「…つーか…神様も意地悪だよな…何で俺じゃなくて夕飛なんだよ…2人の間に入る隙ねーのかよ…」





〜 劉 樹 Side 〜



アイツは彼女と別れた


その理由が


他に好きな人がいるとの事だ


彼女は甘い展開になるのを求めるも


夕飛のバスケに対する思いは人一倍強い事を知り


お互い話し合った結果


そしてアイツは言った


『俺はバスケが好きだけど、コートの側で見守っていて欲しい人がいる』


そう告げた


アイツの中で改めて気付いたのだろう?


自分の中で必要な相手が


例え恋愛感情が


“ある” “ない” にしろ


側にいて欲しい相手が


彼女である事に……





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