第3話 樹砂羅 夕飛の過去
ある日の学校帰りの事だった。
「あれ…?あの人…確か…」
前の方に一際目立つ背の高い男子生徒を見付けた。
彼は、やっぱり目立っているのか、すれ違う人が、その度に振り返る。
「あのっ!」と、声をかける私。
振り返る彼・紗々木君。
「何?愛の告白なら受け付けてねーぞ!」
「誰がっ!樹砂羅君と同じ様な事言わないで!」
「樹砂羅?あー、どうりで何処かで…あんたか」
「覚えてくれてたんだ」
「いや」
「えっ…?」
「なんて嘘だ。おもしれー女だなって思ったから」
「何それ!」
「バカ正直な女」
「あのねーっ!」
クスクス笑う。
私の胸が小さく跳ねる。
「で?何?ところでアイツ元気?」
「はい」
「だったら良かった」
「ていうか友達なら連絡取り合うでしょう?実は仲良くないんじゃないんですか?」
「勝手な言い掛かりはよせ!俺達は幼なじみみたいな感じなんだからな」
「どうだか」
「あんた本当バカ正直だな!」
「ふんっ!」
「可愛くね!」
「うるさい!ていうか、良く、そんな髪で高校…しかも…その制服って…○○国府高校…」
「そうだけど?」
「絶対、校則違反の常習犯!」
「一目おかれているから。で?何か用事あったんだろう?」
「あっ、そう!彼の事…」
「えっ?」
「樹砂羅君の事が聞きたくて」
「アイツの?惚れたのか?」
「それはないっ!」
「ハッキリとキッパリ言ったな」
「本当の事を言ったまでの事ですっ!それより、樹砂羅君にバスケの事は二度と口に出すなって言われて。あれだけの腕前なのになんかもったいない気がして」
「……………」
「…あっ…あなたの口からも言えないなら良いんです。ごめんなさい」
私は頭を深々と下げ去り始めると同時に腕を掴まれ引き止められた。
ドキッと胸が大きく跳ねる。
「聞きたいんだろ?」
私は振り返る。
「…それは…」
「明日来な!話してやるよ」
「えっ…?」
「今日は用事あるから話せなくてな」
「…分かりました…じゃあ明日…学校に来ます」
「ああ。あっ!あんたの名前、何?」
「えっ?あ、山戸 真央です」
「OK」
そして私達は別れた。
次の日。
私は彼、沙々木君の学校へと行った。
正門前で待機していた私。
そこへ――――
「おっ!可愛い〜♪他校生が何の用事?」
「彼氏待ち?」
3人の男子生徒が私の前に来ると声を掛けてきた。
「い、いいえ。そんな相手いません!」
「嘘!?意外!」
「じゃあ、誰待ってんの?」
「そ、そんなの関係ないじゃないですか!?」
グイッと肩を抱き寄せられる。
「は、離して下さい!」
「可愛い〜♪」
次の瞬間。
「なあ、お前ら、その子に何か用?」
「あ?何だよ。別にお前には関係…」
「…あっ…お前…」
「お、おい!行くぞ!」
彼等は走り去って行った。
《やっぱ不良…恐るべし紗々木 劉樹》
「あっ!今、やっぱ不良って思ったろ?」
ギクッ
「えっ!?いや…」
「図星!」
「ち、違っ…!」
クスクス笑う紗々木君。
「ほ、本当に違うからっ!」
「はいはい。ちょっと場所変えるぞ」
そう言うとスタスタと私を置いて歩き始める。
「ちょ、ちょっと!待っ…!」
ガクッと体のバランスを崩す。
「きゃあっ!」
ドサッ
転びそうになる私。
グイッと私を抱き留める。
「何してんだよ。…ドジ!」
「ご、ごめん…」
ドキーーッ
のぞき込むように至近距離にある、紗々木君の顔に胸が飛び出す勢いで大きく跳ねる。
彼は私を片手で抱き留めている状態で、
そのまま肩に担ぎ込まれそうな勢いで、ガッシリした体をしていた。
「そのまま肩に担(かつ)ぐ?」
「えっ!?な、何言って…」
焦る私を見てクスクス笑うも、体を離すと、ヒョイと担ぐ素振りを見せる。
「ちょ、ちょっと!辞め…」
「嘘だ!真に受けるな!」
私達は騒ぐ中移動する。
近くの公園だ。
「わりぃ!学校は変な輩多くて、何もされなったか?」
「えっ?あ、うん」
「それなら良かった」
《案外優しい所あるんだ》
「あっ!」
「何?」
「彼女いたりしないよね?」
「彼女?誰に?」
「紗々木君」
「いない。どうして?」
「いや…彼女いたら、ややこしくなるから。誤解されたらかなわないし」
「あー、そういう事。1年前に別れたからいない。立候補しとくか?」
「良い!お断りします」
「イケメンの俺をフるとは」
「あのねー!私だって選ぶ権利ありますから!つーか自分の事、自信あるんだ。ナルシスト?辞めた方が良いよ」
ムニュっと私の両頬をつまむ。
「…痛い…」
パッと離す。
「じゃあ、本題な」
「本題?」
「アイツの事、聞きてーんだろ?」
「あっ!そう!そうだよ!」
「…俺は…帰って良いか?」
「駄目、駄目、駄目!話、聞くから!つーか、話を聞く為に来たのに来た意味なくない?」
「当たり前だ!俺も何の為に呼び出した意味がなくなる!……アイツ…暴力事件…起こしてんだ…」
「…えっ!?」
暴力事件!?
意外な言葉に驚くしかなかった。
普段の彼から想像出来ない。
確かに一瞬、違う性格を目の当たりにした事はあるけど…
だけど、何かしらの理由があるんじゃないか?と……
「アイツ退学処分になる覚悟で、バスケの顧問の先公を殴ったんだ…アイツ…バスケを彼女のように、こよなく愛してた…いや…愛してるの間違いかな…?バスケ馬鹿だからな」
「…やっぱり…バスケ好きなんだ…」
「アイツにとっては命の次に大事なんじゃねーの?」
「………………」
「アイツ…間違ってねーのに、顧問の先公は…」
彼等のバスケの光景が蘇る。
「こらーーっ!樹砂羅 夕飛ーーっ!何をしてんだーー?バスケのエースだからって調子に乗るんじゃなーーい!」
「ちょ、ちょっと待てよ!あれはアイツらが…」
「人のせいにするんじゃない!今のはこっちが反則だろ?」
「そんなわけ…」
「樹砂羅ー、顧問の私が言っている事が間違っているって言うのか?ん?」
「でも俺は何もやってねーし!つーか…自分の生徒であり、部員を信じねーのかよ!ふざけんなよ!それでもお前は俺達の顧問かよ!俺は本当に何もやってねーぞ!」
「何処に、その保証があるんだ?ん?」
バキーーッ
顧問の先生を殴る樹砂羅君の姿があった。
「夕飛っ!」
「樹砂羅っ!お前…顧問の俺を殴るとは…退部だ!退部!学校も退学だ!」
「言われなくても、こっちから辞めてやるよ!生徒や部員を信じねー、学校の下でやっていけるかっ!」
走り去って行く彼の姿があった。
「おいっ!夕っ!」と、紗々木君。
「………………」
「アイツは、すっげぇ悔しそうに涙堪(こら)えているのが分かった。バスケの名門校の1つだからな…。俺も、その後すぐに辞めた。アイツは、俺まで辞める事ねーだろ?って責めたけど…俺は、お前とやるバスケがしたいって…お前のいないバスケはバスケじゃないって言ってやった」
私達の会話に戻り、紗々木君は、私に微かに微笑んだ。
何処か切なそうに微笑む彼の表情に
トクンと私の胸の奥を小さくノックした。
「話は以上だ」
「そうか…二人って…名コンビなんだね」
「えっ?」
「樹砂羅君のいないバスケはバスケじゃないって言う位なら…相当、信頼しているというか…」
「まーな…アイツとバスケは俺にとって、人生のパートナーみたいな感じだし」
「…そうか…」
「後は特に聞く事ないのか?」
「特に。あっ!あった!樹砂羅君って性格違う時ない?」
「性格?ある!心当たりある感じ?」
「うん…バスケの件で尋ねたら、普段の性格から一転した瞬間あったから」
「あー。まあ、あった所で女には暴力振るわないから安心しな」
「うん…分かった。…ねえ、もし、樹砂羅君が、バスケに戻るとしたら…どうする…?」
「…えっ…?…そうだな…そっちに転入して来て、同じコートに立つかな?」
「えっ?」
「まあ、そうなった時は宜しくな!」
ドキッ
笑顔を見せる彼に胸が大きく跳ねる。
「アイツの為に、バスケに戻してやってくれ!もし、戻るなら俺も来るからって伝えて欲しい」
「うん…戻ってくれると良いね…」
「アイツは前を向いて歩んでるだろう?アイツから、バスケを奪えば何も残らねーよ。アイツも本当はバスケがしたいはずだからな」
私達は別れた。
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