第6話 早朝会議・2
「えー、どこまで話しましたかな? ああ、カルマン城に行くところから続けましょうか」
「カルマン城にはあたしとラウル、そしてあんたの三人で行くことになってるの」
マイペースな性格故か、すっかりいつもの調子に戻ったアリスが説明してくれる。
すぐ普段通りに振舞えるのは、アリスの長所の一つだろう。先程は危うく争いごとを起こしそうになってしまったが、それを極力避けたいと思っている要には、そんな彼女の振舞いがすごくありがたかった。
「え? 騎士団とか大勢で行くんじゃないの?」
アリスの言葉に、要はきょとんとした顔で首を傾げる。
「あんたねぇ、そんなことしたらエドガーがどうなるかわかんないじゃない」
「あ、そっか」
母親がよく見ている刑事ドラマとかでも、警察が動いてることは内緒に……なんて場面をよく見掛ける気がする、と要は納得した。
「今回の事件については、国民はもちろん、城内でもここにいる私を含めた五人以外には一切公表していません」
クローゼが付け足して教えてくれるが、
「何で?」
まだいまいち把握しきれていない要はさらに首を傾げた。その様子にアリスは呆れ顔を見せる。
「この国というか、大陸は一見平和に見えるけど、いくつかの国がレイナードに対して反乱を起こそうとしてるって噂があったりなかったりしてるのよ」
「あったりなかったり、ってまた、大雑把な……」
「つまり噂が本当だとして、陛下が誘拐されたと他国に知られたら、ここぞとばかりに一気に仕掛けてくる可能性もゼロじゃないってことなんです。もちろん、国民を不安にさせることも避けたいですし」
ラウルがアリスの言葉に補足して、さらに説明してくれた。
「こんなチャンス、まずないでしょうからね。どこから情報が洩れるかもわからないし。だから最小限の人数で動くことにしたの。あたしは手紙の第一発見者だったのと、文献の解読要員ってことで今回のメンバーに入ってるの。で、ラウルはあたしのボディーガードってところね。ちなみに今、エドガーはおたふく風邪で寝込んでるってことになってるわ」
「おたふく風邪……っ」
さらりとアリスの口から出てきた言葉に、不謹慎とは思いつつも要は顔を大きく腫らした王様を想像して吹き出しそうになった。
「そういう訳だから、犯人がいると思われるカルマン城にはあたしたち三人で行くわ」
「クローゼさんとヘーゲルさんは?」
疑問を素直に口にすると、クローゼが答える。
「私も一緒に行きたいのは山々なのですが、陛下がいない間のフォローをしないといけませんので。それに私が城を空けると、それはそれでまた問題になりますから」
「私はレイナード港で先に出航の準備をしてお待ちしております。ただ、クローゼ殿と同じく総長たる者が城を長く空けるわけにはいきませんから、私の代わりと言ってはなんですが、視察という名目で隣国のカルマン港までは第三騎士団をお付けします」
ヘーゲルもまた、そう答えた。
「じゃあ、ヘーゲルさんは港までは一緒ってこと?」
「残念だけど、あたしたちはこの城を出てすぐに別行動よ」
言うと、アリスは会議テーブルの端に置いてあった大きな地図を手に取り、広げて見せた。
「これが、あたしたちの住んでいるクランダール大陸」
地図の一番東にある、縦長の大陸の中央を指で差す。
「そしてこの大陸の一番北にあるのがここ、あたしたちが今いるレイナード王国ね」
指を北へと滑らせて、トントンと叩く。
「ふむふむ」
「で、レイナード港がここ。南西に少し行ったところよ。そこから船で北西に一日ほど行ったところに目的地のカルマン大陸があるの。小さい大陸だから大陸名と国名は同じなんだけど、ちゃんと理解した?」
「それはまあ……。でもレイナード港まで近そうだけど別行動する理由は?」
「昨日から何度も言ってる通り、あたしはまだあんたを【救国の主】だと認めたわけじゃないの。だから武器の調達も兼ねて、まずは城を出て反時計回りで北に行くわ」
「……言ってることがよくわかんないんだけど」
顔に沢山のクエスチョンマークを浮かべた要が問う。
「この国の裏手にクルト
アリスの意味不明な説明を、ラウルが丁寧に訳してくれた。
「ただし、あんたが本物じゃないとその剣は入手できないらしいけどね」
「どういうこと?」
「実際に行ってみればわかるわ」
「では私は早速、第三騎士団を率いてレイナード港に向かいますかな」
そう言うと、ヘーゲルは席を立つ。
「じゃあ、あたしたちも準備をしてすぐに出発しましょう」
続いてアリスも立ち上がった。
※※※
会議を終えてから約一時間半後。要、アリス、そしてラウルの三人が城門前にいた。
天気は雲一つない快晴で、絶好の出発日和だ。この世界でも青空は同じに見えるが、夜空も同じく見えるのだろうか、と昨夜はすぐに寝てしまった要は何となくそんなことを考えた。
「えっと、これでいい……かな?」
制服の上から紺色のフード付きマントを羽織った要は、ラウルから渡された護身用の短剣を腰に装備する。
護身用とはいえ、素人の要から見ても
「いいんじゃない?」
「ええ、大丈夫です」
同じく紺色のマントを羽織ったアリスとラウルに確認してもらう。
アリスも護身用に短剣を装備していて、ラウルは短剣の他に長剣も装備していた。二人の装備は自前のものらしい。ということは、これまでにも色々なところを冒険してきたのかと要は考えたが、気が向いたらそのうち聞いてみようと思い、今は聞かないことにした。
「それじゃ行きましょう。あんた、迷子になるんじゃないわよ。もしなっても探さないから」
「せめて探すふりくらいはしてくれよ! って相変わらずなおれの扱い……」
うなだれる要を引き連れた一行は揃って跳ね橋を渡ると、まずは北のクルト山を目指し出発したのだった。
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