第23話 合流

「まさか、地下牢でここの王様に会ってたなんてね」


 ラウルが足早に立ち去った後、要とアリス、エドガーの三人はなぜかしゃがみ込みながら会話をしていた。そしてその中でアリスがひとつ息を吐いた。


「正確には壁越しにほんの少し話しただけだから、私が誰なのかは知らないはずだよ」

「でも、おれたちが助けに行かなくていいんですか?」


 ようやく話に入ってこられた要が言う。もしすぐ近くに地下牢があるのなら、自分たちが行った方がいいのではないかと思ったのだ。しかしエドガーは首を横に振った。


「それは第三騎士団の仕事だ。今私たちが助けてしまうと色々と問題になってしまうからね」

「問題……?」


 要は首を傾げるが、アリスはエドガーの言いたいことを理解していたようだった。


「つまり第三騎士団がこの城にいるリトゥスを倒して、王様を解放したってことにしたいわけでしょう?」

「さすが、アリスだね」


 エドガーが嬉しそうに手を叩く。しかし、まだ全く話の見えてこない要はさらに大きく首を傾げた。


「何で?」

「あたしたちが助けると、今回の誘拐事件がこの国にばれちゃうのよ。エドガーはこんなでも一応有名だから、目撃されたらどうしてカルマンにいるのかってなるじゃない。まさかこの寝間着姿で視察です、なんて言えるはずもないし。それにあたしたちが助けるより、レイナードの騎士団が助けにきて、カルマンを占拠していたリトゥスを倒したってことにした方がカルマン国民も安心するでしょうし」

「こんなでも……? 一応……?」


 アリスの説明に一部引っかかりを覚えたエドガーが小さく呟くが、誰もそれには気付かない。


「えーと、とりあえずおれたちは何もしてないってことになればいいの……?」


 要は難しい説明を何とか頭の中で整理しようとした。が、把握できたのはとにかく後は第三騎士団に任せる、ということくらいだった。


「ざっくり言ってしまえばそうね」


 アリスが頷くと、エドガーがその続きを話してくれる。


「だから私たちは第三騎士団が突入してきたら、そのどさくさに紛れて裏口から脱出し、港でラウルと合流する。ヘーゲルはきっと待ちきれずに後から船で追ってきているだろうから、ヘーゲルとも合流してその船で一足先にレイナードに戻る。さすがに第三騎士団の船に乗るわけにもいかないからね」


 そう言って苦笑した。


「でもここにリトゥスがいないと、それこそ第三騎士団におかしいって思われるんじゃ……?」

「そこはラウルが適当なことでも言って上手くやってくれるわ。さてと、そろそろ行くわよ」


 アリスが立ち上がるとエドガー、そして要と続いた。



  ※※※



 話している間に何とか歩ける程度にまで回復した要はアリス、エドガーと共に裏口にいた。


 エドガーはアリスのマントを羽織り、フードを目深まぶかに被っている。要がマントを貸そうとしたのだが、アリスに『あんたの服も目立つから』という理由であっさりと却下されていた。ラウルと同じくらいの体格のエドガーには小柄なアリスのサイズだと大分小さいのだが、顔を隠すだけなら今はこれで十分だった。


 やがて城門の方が騒がしくなってきた。これから第三騎士団が突入してくるのだろう。聞こえてくる音でそれを確認すると、三人は静かにカルマン城を後にする。


 いつの間にか雨はやんでいて、所々見える雲の切れ間からはオレンジ色の夕陽が差し込んでいた。


 港ではエドガーの予想通り、レイナード港で待機しているはずのヘーゲルが来ていて、先にラウルと合流していた。


「ヘーゲル!」


 エドガーがそれまで被っていたフードを脱いで笑顔を見せると、ヘーゲルは安堵の涙を浮かべた。


「陛下……!」


 溢れそうになる涙をどうにか堪えると、感極まったのかそれだけを言ったきり黙ってしまう。そんなヘーゲルの手を取ったエドガーはそれを両手で包み込み、まるで『ありがとう』とでもいうように無言で力を込めた。


「ヘーゲル、第三騎士団については?」


 ようやく手を離したエドガーが口を開く。


「先程、ラウル殿から状況の説明を受けました」

「ならば問題ないな。乗ってきた船に案内してくれ」


 大きく頷いてみせたエドガーは、ヘーゲルに船への案内を促した。


 そして来た時よりもずっと小さな小型船に五人揃って乗り込む。やはり待ちきれなかったと言うヘーゲルは、単身この船を操縦してカルマン港まで来たのだと教えてくれた。


 要は狭い船内をぐるりと眺める。来た時の大きな船もよかったが、この小さな船も皆が近くで一緒にいられるという安心感があって、何だかいいものだなと温かな気持ちになった。




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