第21話 最後の戦い・2
『――――
次の瞬間、リトゥスの全身が激しく燃える青白い炎で包まれる。要はまだ痛む身体で何とか着地に成功すると、リトゥスの方に視線を投げた。
「やった……か……?」
「カナメ! 大丈夫ですか!?」
ラウルが駆け寄ってきて、よろけそうになった要の身体を支えてくれる。
「……ありがとう」
そのまま炎から離れるようにして移動すると、要は床に膝をついた。流れる汗も拭うことなく、少し離れたところでまだ渦巻くようにして燃え続けている炎を黙って見る。そこにアリスがゆっくりと近づいてきた。
「アリス……」
「意外とやるじゃない」
額に前髪を張り付かせ、息を切らせたアリスが要の頭上で言う。彼女もまた、大技を使い精神的にも肉体的にも疲れ切っているのだろう。それでも態度と口調はいつもと同じだった。そんな様子に要の口元が綻ぶ。
「……『意外』は余計だ!」
要が声を振り絞ってそう返すと、三人揃って大きな息を吐く。そして目だけで笑い合った。そこで大事なことを思い出す。
「そうだ! リトゥスは!?」
のんびり笑っている場合ではなかった。三人は慌てて炎の方に向き直るが、いつの間にか炎とリトゥスが消えていた。だが、何かとても小さなものが残っているのが見える。あれは一体何なのだろうか。
「ちょっと見てくるわ」
全身の力が抜けて動くことのできない要をその場に残し、アリスとラウルが様子を見に行くことにした。
「これは?」
謎の物体を前にして、ラウルが首を傾げた。
「多分、リトゥスの正体……というか本体よね」
アリスは訝し気に言うと、それをつまみ上げる。
「可愛い!」
思わずラウルが声を上げた。『可愛い』とは一体どういうことなのか。
「ちょっと、おれにも見せて……」
離れていて状況のよくわからない要が、今にも消え入りそうな声で訴えると、『リトゥスの本体』を手のひらに乗せたアリスとラウルが戻ってきた。
「これって……」
親指サイズの鳥の形をしたオレンジ色の炎。いや、炎でできた小鳥と言った方がいいのか。手のひらに乗せられるということは熱くはないのだろう。
実際に見たことはないが、伝説の不死鳥フェニックスをものすごく小さくしたらこんな感じだろうか、などと要は思った。
「……ピーッ! ピーッ!」
炎の小鳥が怒ったように、高い声で鳴く。どうやら人間の言葉を話すことはできないらしいが、リトゥスがいた場所にいたということは、イフリートから分離したのがこの小鳥で間違いないようだ。
「すごく可愛いと思いませんか!?」
「う、うん……」
興奮して頬を上気させているラウルに、要はそれだけを答えるのが精一杯だった。そうだラウルはこういう人間だった、と今更ながらに思い出す。
「とりあえず、これは持ち帰りましょう。何か入れ物は……」
「これはどうですか?」
アリスが見回す間もなく、すかさずラウルが懐から小瓶を取り出した。すでに空になっているが金平糖の入っていたやつだ。
「じゃあこれに入れて……って、蓋をしても大丈夫なのかしら?」
炎は酸素がないと消えてしまう。つまりこの小鳥も炎でできている以上、消えてしまう可能性がある。いや、精霊は死ぬことがないと言っていたから、イフリートの一部であるこの小鳥ももしかしたら消えないのではないか。
要はそんなことを考え、まあ何とかなるだろうと適当に答えた。
「コルクだから少しは酸素も入るんじゃない?」
「そうね、消えたら消えたで仕方ないわね」
そんな要に対して無責任にもあっさりとそう返したアリスは、さっさとコルクの栓をしてしまう。いつものように『馬鹿じゃないの』と返ってくると予想していた要はちょっと拍子抜けしたが、おそらくアリスも同じようなことを考えていたのだろう。
しかし大事な証拠……というか犯人をこんな扱いでいいのだろうかとも思ったが、そこはアリスに任せることにして要は大人しくしていることにする。
「俺が持っていてもいいですか!?」
要の横では、瞳を輝かせたイケメンがそわそわしながらアリスの答えを待っていた。
「いいわよ」
アリスに快諾されるとラウルは嬉しそうに小瓶を受け取り、それを大事そうに懐にしまう。
そんなやり取りをしていると、三人から離れたところで何だか間の抜けた声が聞こえたような気がして、揃って首を傾げた。
「……?」
声のした方を振り返ると、またさらに情けない声が聞こえてきた。
「――――アリスぅぅぅぅ」
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