第16話 いざ、カルマン城へ

「これは……」


 要たちの前には真新しい立て看板があった。『こちらカルマン城』、と右向きの矢印と共に書かれている。相変わらず要は字が読めないが、つい最近どこかで見た汚い字だ。


「これまた、ご丁寧なことね」


 看板の前にしゃがみ込み、頬杖をついたアリスが感心したように言う。


「罠……とか?」

「いえ、場所は間違っていないので多分罠ではないと。ほら」


 正気に戻ったラウルがそう言いながら、矢印と同じ方向を指差した。顔を向けると、一キロメートルほど先だろうか、小高い丘に大きな城門が見える。


「犯人は余程あたしたちをお城にご招待したいみたいね。さて、と。どうする?」


 問いながらアリスが立ち上がる。ここまで来て今更聞かれるまでもない。


「――もちろん」

「そうですね」

「お望み通り、招待されてやりましょう」


 三人揃って言うと、顔を見合わせ力強く頷いた。



  ※※※



 ラウルの言った通り、特に罠もなくあっさりと城内に入ることができた要は、ちょっとどころかかなり拍子抜けしていた。


「ホントに罠とかなかったな」

「まあ、そうでしょうね」

「俺たちを城に招待するのが目的ですから」

「で、これからどこに向かえばいいのさ」


 要はキョロキョロと辺りを見回した。


 薄暗い城内も自分たち以外に人の姿はない。外ではとうとう雨が降り出したらしく、静まり返った城内には雨音だけが響いている。まるで嵐の前の静けさのようで少し怖くなった。


「多分というか、ほぼ間違いなく、謁見の間で待ち構えてるんじゃないかしら。もちろんエドガーと一緒に。【救国の主】を連れてカルマン城に、ってことは、犯人は逃げも隠れもしてないでしょうから」

「そうですね」


 ラウルもアリスに同意する。


「謁見の間……」

「あの扉の奥ね」


 アリスは正面の階段を上がったところにある、ひときわ豪華な装飾を施された大きな扉を示した。


「あそこに犯人と王様が……!」


 要がその扉を見上げながら呟く。


「ここにずっといても仕方がないし、さっさと行ってみましょう」


 そう言って階段に向かって歩き出したアリスに、要とラウルが続いた。



  ※※※



 大きな扉を前にして、要は緊張がピークを迎えようとしていた。


(この扉一枚を隔てた向こう側にいるのか……)


 ごくりと唾を飲み込む要の背を、ラウルが軽く叩いてくる。


「大丈夫です」


 こんな時でもにっこりと微笑んでみせるラウルに、ほんの少しだが緊張が解けたような気がした。そうだ、自分は一人ではないのだと、要は改めて気付かされる。


「うん、ありがとう」


 頷くと、素直に感謝を口にした。


「ここまで来たら、緊張したところでどうにもならないわよ」

「それはわかってるけどさ」


 全く緊張していない様子のアリスとそんなことをぶつぶつ話していると、ラウルがまた声を掛けてきた。


「では、俺が開けますね」


 そう言って扉に両手を掛けると、そのままゆっくり押し広げる。


 少しずつ開いていく扉の隙間から漏れてきた光に、要は目を細めた。静かに目を開くと、明るい広間の一番奥に豪華な玉座が見えた。


 そしてそこには足を組みながら、肘をつき座っている人物が一人。燃えるように赤い髪と瞳を持った、ラウルと同い年くらいの青年だった。


「――――ようこそ、僕のカルマン城に」




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