第14話 アリスとエドガー
その日の夜も天気が良く、満天の星空を眺めることができた。
なかなか寝付けずに、また星空でも眺めようと甲板に出てきた要は、偶然先に甲板に出てきていたアリスとばったり出会った。
「まだ起きてたんだ」
「……あんたこそ」
ちらりと視線だけを投げてきたアリスは、相変わらず素っ気ない態度だ。
「おれは何だか緊張しちゃってさ。だって、明日の昼にはカルマン港に着くってラウルが言ってたし。アリスはやっぱり王様のことが心配で?」
アリスの横に並び、手すりに両腕を掛ける。アリスは小さく頷いた。
「そうね、普段はすごくめんどくさいけど、あんなでもあたしの恩人だから」
遠くの海面を見ながら、アリスは呟くように話す。
「恩人?」
「そう」
それだけを言ったきり、揃って沈黙してしまう。詳しく話を聞いてみたかったが、何だかそれ以上聞いてはいけないような気がして、要は夜空を見上げた。ちょうど目の前に大きな月があった。
「あ、今日って満月なの?」
「満月は五日前よ、エドガーが誘拐された日」
「……そっか」
話を逸らそうとしたはずなのに、結局蒸し返してしまい要はうなだれる。この後は何を言っても墓穴を掘りそうで、もういっそ聞いてやれ! と開き直った。
「ねえ、王様ってどんな人?」
「あまり詳しくは知らないけど、十二年前に【
「……やっぱりすごい人なんだね。おれとは違って、欠点なんてどこにもなさそう」
要は感嘆の溜息を吐いた。そして自分とは住む世界が全く違うのだと改めて思う。
「そんなことないわよ。王様とは言っても人間だし」
「どういうこと?」
「そうね、やたらとあたしに抱きつきたがるし、頬ずりしようとしてくるわ。あとは、あたしがどんなに遠くにいても見つけて飛んでくるわね。あれって一体どんな探査能力なのかしら? しかもいくら殴っても懲りないから本当に困るのよ。ああ、あとは朝が弱いから、ほぼ一日おきにたたき起こしに行かないといけないのが面倒ね。あたしから見れば欠点だらけよ」
指をひとつずつ折りながら、呆れ顔で話すアリスに要は苦笑するしかなかった。
「……あはは、それは大変だね」
(……殴られてる王様も)
だがアリスはあまり本気で困っている訳でもなさそうだ。何となくだが話し方が柔らかい気がする。
「でも」
アリスは一旦そこで言葉を区切った。
「……すごくいい人よ。しかも仕事はできるし、国民からの人望も厚い。あんたとは大違いね」
「何でまたそこで比べるかな!」
「あんたも実際に会ってみればわかるわ。……それじゃ、あたしはもう寝るから」
要に背を向けたアリスの髪が潮風で揺れる。
「おやすみ」
右手をひらひらと振りながら一言だけ残すと、振り返ることもなくそのまま去っていった。
一人きりになった甲板で要は月を眺める。
「『会ってみれば』、か。アリスは絶対に助ける気でいるんだ、おれも頑張らないと。でも、戦えもしないおれにできるのか……?」
気合いを入れなおそうとするが、逆に不安になってきて海面に視線を落とした。
護身用の剣の稽古はラウルに少しだけ付けてもらったが、いまだに戦うのが怖くて千鳥を抜けないでいる自分に本当にできるのだろうか。そう、千鳥はクルト山で初めて抜いた時以来、一度も抜いていない。
「――――それでも」
うつむいていた顔を上げる。
自分でアリスたちについて行くと、アリスの大事な王様を助けると決めた。やっぱりまだ戦うことはできないかもしれないし、そんなことでは彼女に甘い、と言われるかもしれない。でもせめて二人の足を引っ張らないよう、自分の身は自分で守ろうと要は改めて決意した。
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