第11話 野営・1

 野営開始から数時間後。すっかり日も暮れて、空には沢山の星たちが瞬いていた。


 三人で携帯食を軽く食べた後、自分の住んでいるところは比較的都会だから、こんなに綺麗に星が見えるなんて、と要ははしゃぎ出す。その様子にアリスはやや呆れたような顔を見せ、ラウルはそんな二人を微笑ましく見守っていた。


 その後、アリスは早々に焚火の向こう側で横になっていた。どうやらすでに眠っているらしい。小さいが規則正しい寝息が聞こえてくる。さすがのアリスも山登りは疲れたのだろう。


 ラウルは要の隣で大きな石に腰かけ、一緒に焚火を眺めている。互いに無言だった。ゆっくりと静かな時が流れている。


 一通りはしゃぎ終えた要は、焚火の前で膝を抱えて座り込んでいた。ようやく気持ちも落ち着き、夜の静けさの中で色々と考え出した。先程の盗賊たちのこと、これからのこと。そしてアリスの言葉を思い出す。


『戦えないのに?』

『そんな甘いこと言ってると、いつか本当に大事なものを失うわよ!』


 改めて思い返すと、どの言葉も要の心にナイフのように深く突き刺さってくる。


(本当に大事なもの……か。さっきの盗賊たちに対してはただの脅しだったみたいだけど、いざという時にはアリスも大事な王様のために本気で戦うんだろうな。あんなにすごい炎の魔法を使えるんだし。でも、おれはまだ大事なものが何かわからないし、剣も魔法も使えない。できれば戦いなんてしたくない。そう思うこと自体が甘いのはわかる……けど、やっぱり誰かを傷つけるのは……ああ、でもそうすると、いつか大事なものを失うかもしれないわけで……。戦わずに、大事なものを守るなんてことはやっぱり無理なのかな……)


 腕を組んでみたり、頭を抱えてみたり、または百面相をしてみたりとあれこれ考えてみたところで答えなんてすぐに出るはずもなく、星空を仰ぎながら小さく溜息を吐いた時だった。


「こちらに来てから色々あって、疲れたでしょう?」


 隣にいるラウルがそう声を掛けてきた。そして、懐からカラフルな星みたいなものが沢山入った小瓶を取り出す。


「……金平糖こんぺいとう?」

「疲れた時には甘いものって昔から言いますから」


 どうぞ、とコルクの栓を抜いた小瓶を差し出されたので、思わず反射的に手のひらを出してしまった。そこにコロコロと何粒か転がってくる。


「ありがとう」


 まとめて口の中に放り込み一口かじると、ふんわりと心地の良い甘さが広がった。


「いくら考えても答えの出ない問題は、一旦置いておくことも肝心です。少し距離を取ってみるとわかってきたりするものですから」

「……おれの考えてること、全部わかってるって顔だね」


 要は頬を掻きながら苦笑する。


「さっき、色々とアリスに言われたことでしょう?」

「……うん」

「アリスの言い方は厳しいですが、それは貴方が嫌いだからとかではないんです。俺の口からは言えませんが、彼女もああ見えて今まで沢山辛い思いをしてきているんです。多分、貴方に言った言葉は自分に言い聞かせるための言葉でもあるんでしょう」


 そう言ってラウルは夜空を見上げる。要は黙ってラウルの言葉を聞いていた。


「貴方が争いや戦いを好まないのはわかっています。もちろん、アリスもわかっているはずです。でも、貴方は【救国の主】として千鳥に認められ、自分で俺たちと一緒に行くと決めた。だから――――」


 そして要の方に向き直ると、ラウルはにっこりと満面の笑みを見せた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る