第9話 炎の指揮者・1
無事に千鳥を手に入れた三人は、その場所で野営の準備を始めようとしていた。ちょうど開けた場所だったのと、日も暮れてきていたところだったので今日はそれ以上動かない方がいい、とのラウルの判断からだ。
とりあえず、まずは薪を集めないと、と話していたところだった。
「有り金全部置いていきな!」
背後から突然、ガラガラ声の男の野太い声が聞こえてきた。声のした方を向けば、明らかに柄の悪い男たちがぞろぞろと現れる。ざっと数えて十人くらいだろうか。全員がナイフや短剣など、何かしらの武器を手にしている。
「やっぱり、盗賊団が住み着いてるって噂は本当だったのね」
やれやれ、と呆れているアリスと、それとは反対に、初めて見る盗賊たちに怯えた様子を見せる要。ラウルは盗賊たちの動向を窺っているようだった。
「話し合いで何とかならないかな……?」
要がラウルの後ろにこそこそと隠れるようにして、アリスに小声で問う。
「あんたは本当に甘いわね。無理に決まってるじゃない」
「そこを何とか……」
「そんな甘いこと言ってると、いつか本当に大事なものを失うわよ!」
どうにか事を穏便に済ませようと粘る要をアリスがいきなり一喝した。突然の大声に要は目を見開き、それまでラウルのマントを掴んでいた手に思わず力がこもる。盗賊たちも驚いていたようだったが、もちろんそれで逃げ出すような輩などではない。
(おれ、そんなに悪いこと言った……?)
いまだ厳しい表情で要を睨みつけるアリスに、要は動揺を隠せなかった。
「ここは俺が」
長剣の柄に手を掛けたラウルが前に出ようとするのを、アリスは左手で制する。
「これくらいの人数、あたし一人で十分よ」
そして盗賊たちを見据えながら、要に言う。
「あんたはそこで黙って見てなさい!」
一歩前に出たアリスが、大きく両手を広げた。同時に紺色のマントが翻る。華奢な女の子に一体何ができるのかと、盗賊たちは余裕の笑みさえ浮かべ、その様子を眺めている。要もこれから何が起こるのだろうと、はらはらしながら彼女の様子を見守っていた。
『我が両の手に宿るは紅蓮の炎――――』
アリスが呪文のようなものを唱え始めると、その両手の上に小さな火球ができる。そしてそれはすぐに大きくなった。そのまま胸の前で、パンッと手を合わせる。
『今こそすべてを焼き尽くせ! ――フレイムプリズン!』
手品のように火球が消えた。次の瞬間。
「うわぁ! 上に火が!」
「やべぇ!」
「こいつ、【炎の
気付けば、盗賊たちの頭上に大きな炎の檻ができていた。そしてそれは、今頃になって自分たちの過ちを知り、慌てて逃げようとする彼らを飲み込むようにして、あっという間に檻の中に閉じ込めてしまう。
(【炎の指揮者】……?)
その様子を、要はまるで夢でも見ているような心地で眺めていた。
運よく檻に囚われなかった盗賊の何人かは、そのまま一目散に逃げていった。檻の中に残された者たちは相当混乱しているらしく、何事かを口々に叫んでいる。『お母さーん!』と聞こえたのはきっと気のせいだろう。
「冷静になれば簡単に出られるのに」
大袈裟に溜息を吐いて見せたアリスが指を鳴らすと、それまで盗賊たちを捕らえていた檻が一瞬で消え去った。
「今のうちだ!」
「逃げろ! 逃げろー!」
ここぞとばかりにわたわたと退散していく盗賊たち。そんな彼らをアリスは追うこともせずに黙って見送った。
「あ、一人転んだ」
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