第4話 これから
「じゃあ話がまとまったところで、早速これからのことなんだけど」
(相変わらずおれの扱いひどいな!)
そんな要の心の声に耳を貸すことなんてことは当然なく、アリスはそのまま続ける。
「まず、
「はいはい、会議ねーってちょっと待て! 意味わかんないんだけど!」
要は思わず啜っていた紅茶を吹き出した。汚い、とでも言いたげに睨むアリスに訴える。話の展開の早さにそろそろ泣きそうだ。
「あんたはその場にいて、話を聞いてるだけでいいわよ。詳しいことはちゃんとあたしとラウルで把握しておくから」
そう答えるとアリスはのんびり紅茶を啜った。途中で紅茶がなくなったのか、ティーポットを手にすると自分で注いでいる。
「それならまあ……」
「どうせ聞いてもわかんないでしょうし」
「一言多いんだよ!」
またスルーされるかと思った要だが、アリスはいつの間にか頬杖をつきながら、窓の外に視線を投げていた。
「――――本当はあたしだけで十分なのに」
悔しそうに呟く。その言葉を要は聞き逃さなかった。
「だったら召喚なんてしないで、アリスたちだけで助けに行けばいいんじゃないの?」
次の瞬間、視線を戻したアリスが要を睨んだ。そしてティーカップを乱暴に置くと、大声で怒鳴りつける。
「できるものならあたしだってそうしたかったわよ! でも要求を呑まなきゃエドガーを無事に返してもらえる保証なんてないじゃない!」
アリスは興奮と怒りで顔が真っ赤になっていた。まだ出会って間もないが、これまでに見たことのない表情だった。
「エドガー?」
不思議そうな顔をした要に問われて、アリスははっと我に返る。
「今回誘拐された、国王陛下です」
ラウルの一言に要は驚きを隠せなかった。
「王様に向かって呼び捨て!? いや、今はそこに食いついてる場合じゃないんだけど」
「エドガー陛下は、アリスを妹のように可愛がっていらっしゃるんです」
やや混乱気味の要に、ラウルは丁寧に解説してくれる。
「ああ、なるほど……」
つまり、アリスにとっては身内が誘拐されているようなものか、と納得した。おそらくラウルにとってもそうなのだろう。
「……何も知らないくせに、ひどいこと言ってごめん」
要はすぐに反省すると、素直に頭を下げた。このようにすぐ謝れるのは要の長所の一つだ。
今までの言動で【救国の主】に頼らなければならないのが悔しく、また不本意なのだということがよくわかった。身内が誘拐されたとなれば、自分で助けたいと思うのはごく普通のことだと思う。
「別に分かればいいわ。とにかく、そういう訳であんたがいないと話にならないのよ」
まだ顔はうっすらと赤みを帯びているが、少しは落ち着いたらしいアリスが腕を組んでふんぞり返る。
「わかった、ちゃんと会議には出るよ。本当におれが【救国の主】なのかはわからないけど」
要が少し困ったように頬を掻きながら答えると、アリスはわずかに驚いた表情を見せた。
「ふーん、意外と物分かりがいいのね。じゃあ明日の朝呼びにくるわ」
「また一言多いし!」
そう言って頬を膨らませる要を部屋に置いて、アリスとラウルは立ち去ろうとした。が、扉を開けたところでアリスが何かを思い出したように振り返る。
「あ、部屋にあるものは自由に使って構わないから」
それだけを言うと扉を閉めた。だんだんと遠ざかっていく二人の足音が静かな室内に聞こえている。自分はこれから一体どうなるのだろう、と要は大きく息を吐いた。
その後、ラウルが運んできてくれた温かい食事をとると、特にすることもない要は早々に寝ることにした。突然起こった事態に、精神的にも肉体的にもとても疲れていたのだろう。ベッドに入るとすぐ眠りに落ちてしまったのだった。
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