第24話 あとはモエギ次第
しかし、まだクチナシと稗島ザクロが、八百長をすると決まった訳ではない。
稗島ザクロがクチナシに挑戦状を送りつける。相手の能力を知っていながら、クチナシが稗島ザクロに攻撃する。この二つの判断材料が揃わなければ、モエギたち四人の杞憂で終わる。
金曜日、始業前。
稗島ザクロがクチナシに挑戦状を送った時点で、八百長の可能性は高くなる。挑戦状のやり取りが出来るのは放課後までなので、モエギもスミレもクチナシから目は離せなくなる。
「でも……普通に考えて。親友を謳っている相手に挑戦状なんて出さないよね?」
スミレの台詞にモエギも頷いた。もしモエギが同じ立場だったとしても、挑戦状を出す前にスミレと話し合う。しかし彼らは寮の同室だから、やり取りは誰にも分からない。
ここで重要なのは、挑戦状は校舎内でなければ送れない、という点だった。何故そのような決まりごとがあるかと言えば、間違っても欠席した生徒に送らないようにする為だ。
部屋などで送られたら困るが、校舎内ならば幾らでも見張りようはある。
「……ん?」
急にスミレが生徒端末を取り出したので、モエギも一緒に覗き込む。画面には着信の表示がされており、発信者は士熊ツユクサだった。生徒会長の名前を見て、スミレもモエギも青い顔をした。
「す、スミレです……」
通話の項目を押したスミレが、震えるような声で応答した。
「私だ。まず一つ目の懸念事項が現実となった」
スミレが顔を強張らせ、モエギが眉をひそめた。試合が決まれば、真っ先に連絡が行くのは、生徒会の端末だ。生徒会長の口ぶりから察するに、対戦内容も予想していたものだろう。
「あとはモエギ次第だ。以上」
生徒会長が具体的な内容を言わなかったのは、モエギ達の近くに誰かが居る可能性があったからだろう。そうでなくとも、盗聴能力者だって有り得なくもないのだ。
しばらくすると、クチナシが教室に現れた。
恐らく校舎に入った時点で、稗島ザクロとやり取りをして、そのまま二年B組まで来たのだろう。何事も無かったかのように、平然とした顔つきだった。
モエギは腹が立つものの、同時に少しだけ虚しさを覚えたような気分になった。
「……大丈夫? モエギ」
心配そうな友の声に、モエギは安堵感を覚えた。自分は一人で闘っている訳ではない。そう心に刻みつけ、彼は席を立った。
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