第19話 水曜日
身体に痛みは来ないとはいえ、闘っているのは本人の分身だ。
あの時スミレも米田グンゼも、ギリギリの精神力で闘っていた。結果としてスミレが勝利を掴んだものの、どちらが勝っていてもおかしくはない闘いだったのだ。
今回、敗北を許してしまった米田グンゼだが、まだ生徒会戦の期間はたっぷり残っている。期間中は最後の日まで挑戦は可能なので、いつだって再戦の機会は訪れる状況なのだ。
スミレが生徒会長候補の座を掴んだ次の日、水曜日のことである。
きのう体力を使い切ったというのに、ふらふらになりながらもスミレは、無事に登校。教室に入って真っ先に向かったのは、米田グンゼの席だった。昨日の無事を確認したかったのと、健闘を称えたかった様子だった。
「俺は認める。お前のこと」
米田グンゼが言い放った台詞に、スミレは耳を疑ったようだ。
「つまり、俺よりお前の方が強いって意味だ」
米田グンゼの言葉に、スミレは慌てて否定していた。昨日の戦いは運が良かっただけで、互いの力量に優劣なんて付けられない闘いだったのだ。
「昨日、俺は自分のアイデンティティをかなぐり捨ててまで、お前とスピード勝負した。それで、あの結果だ」
「……うん。だけど、僕が同じ土俵に立って貰っただけで」
「遠慮は要らん。俺をスポーツマンシップに乗っ取らせろ」
それ以上なにを言おうとも、米田グンゼはスミレの言葉を突っぱねていた。棚から牡丹餅のような結果に、スミレも満足は行かないだろうが。米田グンゼは、一度決めたことを曲げない性格のようだった。
「駄目だったか」
肩を落として席に戻ったスミレを見て、モエギは苦笑いを浮かべた。
「つか真面目だな、勝ったんだから、それでいいじゃん」
スミレは首を左右に振った。これから生徒会長になるのならば、正々堂々とすべきだとスミレは主張する。彼も彼で、同じように頑固な部分がある。
「……まぁ、そういうとこがスミレらしいっちゃ、らしいがな」
それ以上は、モエギも何も言わなかった。こういう人間だからこそ、やはり生徒会長になるべき男だと、彼も思っているのだろう。
誰よりもスミレを認めているからこそ、モエギとて副会長として助けになりたいのである。
そんなモエギの願望は、この日見事に崩されてしまうのだった。
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