第18話 残存耐久値ゼロ


 場外に葬られた米田グンゼの分身は、会場の外へと吸い込まれるように消えていく。そう思ったモエギは、愕然とした。


 スミレは詰めが甘かったようだ。今の米田グンゼは、空を飛べる未確認生命体だったのだ。スミレが手を離したことで自由になった相手は、一瞬にして机の上へと戻って来た。


「発想は良かったぞ、スミレ! だが、もう終わりだ!」


 苦戦は強いられるぞ、という生徒会長の言葉をモエギは思い出した。やはり彼の言う通り、スミレは苦戦を強いられてしまった。


 こうなってしまった以上、親友に手段は残されていない。そう思ったモエギに対し、決してスミレは諦めていなかったのだ。


 正面から向かってくる米田グンゼに、スミレは拳を向けた。そして、迅速能力を使用した。


 まさか、断念していたアレを使う気が。モエギはスミレの行動を見て、目を見開いた。


 相手の残存耐久値は不明だが、スミレにはもう手段は残されていなかっただろう。肉を切らせて骨を切るつもりなのか、モエギは両手を組んで柄にもなく神に祈った。


 大きな音を立てて、スミレの拳と米田グンゼの肩が衝突した。


 まるでシャボン玉のように、二つの分身が模型の街から弾けて消えた。


「…………え?」


 モエギが驚愕の声を出し、スミレと米田グンゼは唖然とした表情でいた。


「あ……相打ち?」


 残存耐久値がゼロになれば、分身は消えて無くなる。誰の目にも同時に消えたように見えたので、引き分けとしか思えない状況だった。


「いや、ノーコンテストは認められない」


 生徒会長が言うと、副会長も同意するように頷いた。スミレも米田グンゼも、未だに唖然としている。


「なので映像確認をさせて貰おう」


 生徒端末を見るように会長が促したので、放心状態の二人をよそにモエギが端末に目を向けた。


 コマ送りのように再生されたのは、先ほどの二人が衝突した際の映像だった。


 スミレが突き出した拳に、米田グンゼの肩が当たる。この映像では、互いの残存耐久値が表示されていた。


 二人が衝突し、互いの耐久値がコマ送りでゆっくりと減っていく。これが先にゼロになった方が、敗北となる。祈るような気持ちを込めて、モエギが数値に着目する。


 五、四、三、二、一。


 そして、先にゼロになったのは、未確認生命体の方だった。


「……ってことは」


「……スミレ君。おめでとう」


「うぉぉぉっしゃぁぁ!」


 生徒会室のモエギの歓声が響き渡り、生徒会長と副会長の二人の拍手に包まれる。


 そんな喝采状態の中、肝心のスミレと米田グンゼが動かない。どうしたんだ。近寄ったモエギに、身体を預けるスミレが居た。


「ええっ⁉ お、おい! しっかりしろ!」


 目は閉じていて、身体はぐったりしていた。思わず胸に手をやるが、ちゃんと心音があってモエギは安堵した。どうやらスミレは、気を失っているだけの様子。


 もしかして、とモエギは米田グンゼの方を見る。副会長に介抱されるように、向こうも気を失っていたのだった。


 生徒会長候補戦結果。残存耐久値ゼロにより、挑戦者の勝利。


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