第20話 爪が、ご自慢の……アイツから
昼休み。生徒会室に足を運んだスミレとモエギは、いきなり歓迎の拍手を受ける。
スミレ君、生徒会長候補達成おめでとう。そんな幕が壁に張られ、珍しく生徒会長までも満足そうな表情になっていた。スミレは複雑そうな顔をしながらも、きちんと腕章は袖に着けていた。
「立場上、肩入れは出来ないんじゃなかったんでしたっけ?」
「肩入れなんてしてないぞ」
モエギのツッコミに平然と答える生徒会長だが、これが肩入れで無ければ一体なんだというのだろうか。
「ホラ、会長ってああいうタイプじゃない?」
副会長の耳打ちに、意図の分からないモエギは首を捻った。
「スミレくんみたいなタイプの子には怖がられるのさ」
なるほど、とモエギは納得した。スミレは会長を怖がるどころか羨望し、かつ助言を素直に受け入れて真っ直ぐに目標へと進んだ。そんな後輩が可愛くない筈が無い。
言動と行動が真逆になる会長を見て、モエギは少し笑った。
「君の処の和菓子も美味しいが、たまには洋菓子もどうだ」
嬉しそうに会長が取り出したのは、どうやらお気に入りらしい店のゼリーだった。
いや、どんだけ甘やかすんだよ。心の中でツッコミを入れたモエギだが、流石に口には出せなかった。
その時だった。違和感を覚えたモエギは、自分の腰元へと目を向けて驚いた。生徒端末が光り輝いているのを見るに、どうやら挑戦状のようだった。
「このタイミングでかよ」
どんな奴だろうな、モエギは相手を確認。挑戦者の名前を見た彼は、一度画面から離した目を擦った。
「どうしたのモエギ?」
「……ああ、うん」
様子がおかしいのに気づかれたのか、スミレに心配そうな顔をさせてしまった。モエギは少しだけ悩んだが、いずれバレてしまうだろうと思い直す。
「……挑戦状、来た」
「誰から?」
「爪が、ご自慢の……アイツから」
スミレが目を丸くしたから、勘づいたようだった。
「クチナ師匠が⁉ なん……あ」
何でと言いかけてから、スミレは自分でも気づいてしまった様子だ。生徒会能力戦は試合明けの連戦は禁止されていて、二日前の試合から中一日開いている。
モエギとて予想していなかった訳ではないが、まさか挑戦状を送ってくるとは。
これは飽く迄も、生徒会役員を決める為の取り組み。復讐や私闘で、利用していいものではない筈だ。モエギは思わず、生徒会長たちに助けを乞うような瞳を向けた。
「……拒否も出来るよ」
副会長の台詞を耳にして、モエギは一瞬で理解した。どのような理由があろうとも、試合に参加する権利は二年生全員にある。そしてモエギは、先日の副会長の言葉が頭を過ぎった。
拒否し続けることも出来るが、逃げ続けて生徒会役員になった者は居ない。
恐らく拒否しても、明日また明日と挑戦状は叩きつけられ続けるに違いない。これは自分が引き起こした事態だから、自分が蹴りをつけなければならない。ここでモエギは強い責任感が働いてしまい、受理以外の選択の余地が思いつかなかったのだ。
生徒会長と副会長の端末が同時に光ると、先輩二人は画面とモエギの顔を見比べた。
「……これで後戻りは出来ないよ」
「解ってます……」
副会長の台詞にモエギも頷いた。挑戦状を受理してしまったら、棄権すれば候補がはく奪となってしまう。こうなった以上、モエギは闘うしか無くなってしまったのだ。
「モエギ……」
スミレが心配そうな声を出した理由は、モエギも何となく察せられる。一年以上の付き合いのある彼は、同居人の能力をすべからく把握しているせいだろう。
「心配すんな、蹴散らしてやる!」
ゼロに頼らなくても、幾分か勝算はある。そう見誤っていたのは、モエギだけだったのだ。
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