第14話 志田萌葱vs稗島柘榴


「初めまして、稗島柘榴です」


 放課後。生徒会室に入ったスミレとモエギは、そこに居た人物を見て目を丸くした。


 稗島ザクロと名乗った少年は、二人が思っていた以上に副会長にソックリだった。だけではなく、その隣に居た人物にも心当たりがあったせいだ。


「何で、お前居んの?」


「オレ、ザクロの同居人」


 挑戦者である稗島ザクロの隣に居たのは、スミレたち二年B組の同級生。二人もご存じ爪の能力者、クチナ師匠こと甲斐梔子だった。スミレと同様に、同居人を直に応援したくて入れて貰ったらしい。


「お前、スミレに生徒会長になって欲しいんじゃないのかよ?」


「ああ、でも副カイチョーわぁ……弟がなった方が良くね?」


 モエギの一言に、呆気無く返事をするクチナシだった。昨日はスミレに協力はしたが、確かに副会長候補に関しては何も言ってはいなかった。裏切られたような気分になったのか、モエギが眉間にシワを寄せた。


「この爪やろ……」


「相手は僕だろう、治田くん」


 激昂しそうになったモエギに割って入ったのは、挑戦者の稗島ザクロだった。スミレもスミレで、モエギを宥めるように肩を掴んだ。


「彼の言う通りだよ、モエギ。今は試合に集中しよ」


「……分かったよ」


「よし、治田も稗島も用意はいいか」


 いつの間にか生徒会室に居た教師が、モエギと稗島ザクロに声を掛けた。名指しされた二人が同時に返事をすると、試合会場である模型の乗った机に向かい合うように立った。


 まず教師は稗島ザクロの肩に手を置き、分身能力を発動。光に覆われた挑戦者の胸から、小さな分身が姿を現した。


 同様に教師はモエギの肩に手を置き、小さな分身を作り出す。二人は手の平に自分の分身を載せると、模型で出来た会場へと差し出すように手を伸ばす。


 スミレは自分の生徒端末を手に取り、会場の様子が生中継されているのを確認。いつの間にか隣に来ていたクチナシも、同じように自分の生徒端末を確認していた。


「どういうカラクリなんだろな」


「そういう能力者でも居るんだろうね」


 クチナシの台詞に、スミレも自分の考えを述べる。どうやら彼も、試合が中継されている仕組みは分からないようだった。


『生徒端末をご覧の皆様、お待たせしました。生徒会能力戦の準備が整いました』


 この告示も誰が話しているのか、スミレは謎に思う。やはり、そういう能力者が居るのだろうか。


『試合開始』


 無機質な教師の宣言と共に、大きく鐘が鳴り響いた。当事者でもないスミレは、やはり震えあがってしまう。


「悪いな、スミレ。別にオレ、あいつ嫌いって訳じゃないが。勝つのはザクロだ」


 クチナシの台詞になんて返せば良いのか分からず、スミレは苦い顔を浮かべた。


 モエギの能力を知った上で、クチナシにそこまで言わせるのだ。稗島ザクロはモエギ以上に、凄い能力の使い手なのかもしれない。スミレは息を呑んで、試合会場に目を向けた。


「先手必勝ぉ!」


 分身は喋れないので、本体の方のモエギが言葉を放った。試合会場では分身のモエギが、同じく分身の稗島ザクロの腹に一撃の拳を入れていた。


 スミレは目の前の光景に、自分の視界を疑った。膝をついたのは殴られた牌島ザクロではなく、放った方のモエギだった。


「……え⁉」


 まるで自分が一撃を貰ったかのように、モエギの分身が腹を抑えていた。思わずスミレは、モエギ本体の方を見る。彼にしては珍しく、神妙な顔つきになっていた。


 試合会場の方へ目を戻したスミレは、モエギが立ち上がったのを確認。どうやら致命傷ではないようなので、スミレも安堵の息をつく。


 気を取り直したように、モエギが稗島ザクロの右足に蹴りを入れる。その瞬間、まるで足払いでもされたかのように、モエギの方が転げた。


「……ダメージがこっちに来る?」


 本体の方のモエギが呟き、クチナシが大笑いした。


「その通りだアンデッド! ザクロの能力は共痛覚! お前が放つダメージは全て、貴様自身に返ってくるんだよ!」


 まるで自分の手柄のように、クチナシが得意気に言い放つ。その台詞を耳にしたスミレは、先ほどの副会長の言葉を思い出した。ザクロの能力はモエギくんにとって、もの凄く相性の悪い相手。


「……え、でも返ってきてもゼロになるんじゃ?」


「ならねえみてえだな」


 その台詞を耳にしたスミレは、モエギの方を見る。彼の表情から察するに、どうやらクチナシの言葉に嘘偽りは無いようだった。どういう仕組みかは分からないが、共痛覚にモエギのゼロは通用しない様子だ。


 ゼロ以上に、反則染みた能力だ。モエギの能力は無効化だが、稗島ザクロの場合は加えて相手に跳ね返って来る。もし自分が相手にすると考えれば、ゾッとするスミレだった。


「それなら……生徒会長にだってなれるんじゃ?」


 スミレの台詞に、クチナシは首を左右に振った。


「オレも薦めたが、やっぱり兄貴が副会長だからだろうな」


「そういうものなんだ……」


 しかも全部相手に返ってくるせいか、稗島ザクロの分身は先ほどから微動だにしない。余裕の表情で、モエギの攻撃を待っている様子だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る